・・・ ペペ吉とは豹吉の愛称だ。むかし「望郷」という仏蘭西映画にペペ・ル・モコという異色ある主人公が出て来たが、そのペペをもじったのか、それとも、ペッペッと唾を吐く癖からつけたのか。「ストリート・ガール……?」 人を驚かすが自分は驚か・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・お馬鹿さんなどという愛称は、私には使えない。「あした決闘を見においで。私が奥さんを殺してあげる。いやなら、あなたのお家にじっとひそんで、奥さんのお帰りを待っていなさい。見に来なければ、奥さんを無事に帰してあげるわよ。」そう言ったとき、あの人・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・そうして、この男に、男爵という軽蔑を含めた愛称を与えて、この男の住家をかれらの唯一の慰安所と為した。男爵はぼんやり、これら訪問客たちのために、台所でごはんをたき、わびしげに芋の皮をむいていた。 かれは、そんな男であった。訪問客のひとりが・・・ 太宰治 「花燭」
・・・店の名前、といったようなものも別に無く、トヨ公とかトヨちゃんとか、その店のおやじの愛称らしいものが、その屋台の名前になっていました。トヨ公は、四十ちかい横太りの、額が狭く坊主頭で、眼がわるいらしく、いつも眼のふちが赤くてしょぼしょぼしていま・・・ 太宰治 「女類」
・・・そして、宝石のようなレンシェンをつれて。愛称をレンシェンとよばれたヘレーネ・デムートはイエニーの少女時代からの召使いであった。レンシェンはこの時以来、一生をマルクス家の悲しみと喜びとの中に費してその勤勉と秩序で一家の軸となった。『新ライ・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ 床の上に立って着換えをする重吉に、寝間着の紐をわたしながら、ひろ子は、愛称のようにゆっくりと、「石田さん」 重吉の姓をよんだ。「わたしは、あなたから後家のがんばりを云われるのだと思うと、本当の後家さんにすまないように思うわ・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ 亀井氏の説に従えばレーニンは未来を担う子供達を愛称しながら「遙かなる憧れ」としてそれを抱いていたから「スターリンは権力をもってマルクス・レーニンの芸術的意志を民衆に強制すべきである。マルクス・レーニンの次に来るものは奴隷なき希臘主義者・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫