・・・が、それほど深く愛誦反覆したのも明治二十一、二年頃を最後としてそれから以後は全く一行をだも読まないで、何十年振りでまた読み返すとちょうど出稼人が都会の目眩しい町から静かな田舎の村へ帰ったような気がする。近代の忙だしい騒音や行き塞った苦悶を描・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・だから、ここで戦争文学として取扱うことは至当ではないが、たゞこれが当時の多くの大衆に愛誦された理由が、浪子の悲劇だけでなく、軍人がその中に書かれ、戦争が背景に取り入れられ、戦時気分に満たされていたことに存在するのを注意しなければならない。そ・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・ 明治学院の学生時分から、藤村はダンテの詩集などを愛誦する一方で芭蕉の芸術に傾倒していた。二十三歳頃吉野の方へ放浪した時も、藤村はこの経験によって一層芭蕉を理解することが出来るようになったと語っている。芭蕉の芸術はその文学的教養の面から・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
出典:青空文庫