・・・私は自分を愛護してその道を踏み迷わずに通って行けばいいのを知るようになった。私は嘗て一つの創作の中に妻を犠牲にする決心をした一人の男の事を書いた。事実に於てお前たちの母上は私の為めに犠牲になってくれた。私のように持ち合わした力の使いようを知・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・しかし俺たちは自分の愛護する芸術のために最後まで戦わねばならない。俺たちの主張を成就するためには手段を選んではいられなくなったんだ。俺たちはこの棺の中に死んで横たわるドモ又の霊にかけて誓いを立てよう。俺たちはこの友人の死に値いするだけのりっ・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・若し、その人を忘れずに、記念せんとならばその人が、生前に為しつゝあった思想や、業に対して、惜しみ、愛護し、伝うべきであると。 まことに、詩人たり、思想家たる人の言葉にふさわしい。 誰か、人生行路の輩でなかろうか。まさにその墓は、一寸・・・ 小川未明 「ラスキンの言葉」
・・・彼はその活きたくにへの愛護の本能によって、大蒙古の侵逼を直覚し、この厄難から、祖国を守らんがために、身の危険を忘れて、時の政権の把持者を警諫した。彼は国本を正しくすることによって、世を済い、人間の精神を建てなおすことによって国を建てなおそう・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・動物的、本能的愛護と、手足の労働による世話と、犠牲的奉仕とが母性愛と母子間の従属、融合の愛と理解と感謝とに如何に大きな影響を持つかは思い半ばにすぎるものがある。人倫の根本愛の雛型である母子間の結紐を稀薄にすることが理想的社会の結合を暖かく、・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・それをひねくり廻している矢先へ通りかかったのが保険会社社長で葬儀社長で動物愛護会長で頭が禿げて口髯が黒くて某文士に似ている池田庸平事大矢市次郎君である。それが団十郎の孫にあたるタイピストをつれて散歩しているところを不意に写真機を向けて撮る真・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・庭の平坦な部分のまん中にそれが旗ざおのように立っているのがどうも少し唐突なように思われたが、しかし植物をまるで動物と同じように思って愛護した父は、それを切ることはもちろん移植しようともしなかったのであった。しかし父の死後に家族全部が東京へ引・・・ 寺田寅彦 「庭の追憶」
・・・西洋の学界ではこの思いつきを非常に尊重して愛護し、保有し、また他人の思いつきを尊重する学者が多いのであるが、わが国ではその傾向が少ないようである。「ただの思いつきである」という批評は多く非難の意味をもって使われるようである。思いつきはやはり・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・は、もちろん、その反響さえも、彼女までは伝えないけれども、彼女が永い間、鼓舞され、愛護されていると思った、「守霊」は違った解釈を与えられなければならなくなった。 第一に、守霊は、その名が示しているような任務を負わさるべきではなかった。・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・六月三日は動物愛護デーというので外国から来ている貴婦人たちが天皇の子息である少年を左右から囲んで「なごやかな交歓」をした写真が二面に出ている。その一面には三十一日来四十時間のとりしらべののち五年、七年、十年と重労働刑を判決申しわたされた八人・・・ 宮本百合子 「動物愛護デー」
出典:青空文庫