広東に生れた孫逸仙等を除けば、目ぼしい支那の革命家は、――黄興、蔡鍔、宋教仁等はいずれも湖南に生れている。これは勿論曾国藩や張之洞の感化にもよったのであろう。しかしその感化を説明する為にはやはり湖南の民自身の負けぬ気の強いことも考えな・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・後に母の母が同棲するようになってからは、その感化によって浄土真宗に入って信仰が定まると、外貌が一変して我意のない思い切りのいい、平静な生活を始めるようになった。そして癲癇のような烈しい発作は現われなくなった。もし母が昔の女の道徳に囚れないで・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・これによって僕は宗教の感化力がその教義のいかんよりも、布教者の人格いかんに関することの多いという実際を感じ得た。 僕が迷信の深淵に陥っていた時代は、今から想うても慄然とするくらい、心身共にこれがために縛られてしまい、一日一刻として安らか・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・、欧人の晩食の風習や日本の茶の湯は美食が唯一の目的ではないは誰れも承知して居よう、人間動作の趣味や案内の装飾器物の配列や、応対話談の興味や、薫香の趣味声音の趣味相俟って、品格ある娯楽の間自然的に偉大な感化を得るのであろう加うるに信仰の力と習・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・恩師の食道楽に感化された乎、将た天禀の食癖であった乎、二葉亭は食通ではなかったが食物の穿議がかなり厳ましかった。或る時一緒に散策して某々知人を番町に尋ねた帰るさに靖国神社近くで夕景となったから、何処かで夕飯を喰おうというと、この近辺には喰う・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・その紛々たる群議を排して所信を貫ぬいたのは井侯の果敢と権威とがなければ出来ない事であって、これもまた芸術を尊重する欧米文明の感化であったろう。 劇を文化の重要件として演劇改良が初めて提言されたのもまた当時であった。陛下の天覧が機会となっ・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・何故だといいますと、それが世界を感化するの勢力を持つにいたった原因は、その学校にはエライ非常な女がおった。その人は立派な物理学の機械に優って、立派な天文台に優って、あるいは立派な学者に優って、価値のある魂を持っておったメリー・ライオンという・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・第一にその善き感化を蒙りたるものはユトランドの気候でありました。樹木のなき土地は熱しやすくして冷めやすくあります。ゆえにダルガスの植林以前においてはユトランドの夏は昼は非常に暑くして、夜はときに霜を見ました。四六時中に熱帯の暑気と初冬の霜を・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・これは架空的の宗教よりも強く、また何等根拠のない道徳よりももっと強くその子供の上に感化を与えている。神を信ずるよりも母を信ずる方が子供に取っては深く、且つ強いのである。実に母と子の関係は奇蹟と云っても可い程に尊い感じのするものであり、また強・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・又小学校の時分に与えられた感化程深刻なものはない。ほんとうの人間性や、美くしい感情や、正しい事の観念などは、感激性にとむ少年時代に於てのみよく養われるのではないかと思う。この意味からしても、小学校の教育が多分に精神的要素をもっていることは明・・・ 小川未明 「人間性の深奥に立って」
出典:青空文庫