・・・それに立合った時の感想はここに書きたくない。やはり、どこまでも救われない自我的な自分であることだけが、痛感された。粗末なバラックの建物のまわりの、六七本の桜の若樹は、もはや八分どおり咲いていた。……・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・そしてこの春福島駅で小僧を救った――時の感想が胸に繰返された。「そうだ! 田舎へ帰るとああした事件や、ああした憫れな人々もたくさんいるだろう。そうした処にも自分の歩むべき新しい道がある……」 しかしその救いを要する憫れな人というのは・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・私には何の感想もなかった。ただ私の疲労をまぎらしてゆく快い自動車の動揺ばかりがあった。村の人が背負い網を負って山から帰って来る頃で、見知った顔が何度も自動車を除けた。そのたび私はだんだん「意志の中ぶらり」に興味を覚えて来た。そして、それはま・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・はじめてこの時少年の面貌風采の全幅を目にして見ると、先刻からこの少年に対して自分の抱いていた感想は全く誤っていて、この少年もまた他の同じ位の年齢の児童と同様に真率で温和で少年らしい愛らしい無邪気な感情の所有者であり、そしてその上に聡明さのあ・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・朝に晩に逢う人は、あたかも住慣れた町を眺めるように、近過ぎて反って何の新しい感想も起らないが、稀に面を合せた友達を見ると、実に、驚くほど変っている。高瀬という友達の言草ではないが、「人間に二通りある――一方の人はじりじり年をとる。他方の人は・・・ 島崎藤村 「並木」
「何か、最近の、御感想を聞かせて下さい。」「困りました。」「困りましたでは、私のほうで困ります。何か、聞かせて下さい。」「人間は、正直でなければならない、と最近つくづく感じます。おろかな感想ですが、きのうも道を歩・・・ 太宰治 「一問一答」
・・・と私は、頗る軽薄な感想を口走った。「そのお嫁さんはあなたに惚れてやしませんか?」 名誉職は笑わずに首をかしげた。それから、まじめにこう答えた。「そんな事はありません。」とはっきり否定し、そうして、いよいよまじめに小さい溜息さえも・・・ 太宰治 「嘘」
・・・その後で、私は、この牧師さんに、れいの女房の遺書を読ませて、その感想を問いただしました。「あなたなら、この女房に、なんと答えますか。この牧師さんは、たいへん軽蔑されてやっつけられているようですが、これは、これでいいのでしょうか。あなたは・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・少女に関する感想の多いのはむろんのことだ。 その日は校正が多いので、先生一人それに忙殺されたが、午後二時ころ、少し片づいたので一息吐いていると、 「杉田君」 と編集長が呼んだ。 「え?」 とそっちを向くと、 「君の近・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・ われわれの池が、いろんな小説や感想文の場面に使われた例もなかなか少なくなさそうであるが、このほうの文献はそのほうの専門家にお願いしたほうがよいと思うから、ここではいっさい触れない事とする。・・・ 寺田寅彦 「池」
出典:青空文庫