・・・坊ちゃん、と言われて私は、やはり私の家はこの部落では物持ちで上品なほうなのだから、私の物腰にもどこか上品な魅力があってそれでこんなに特別に可愛がられるのかしら、とまことに子供らしくない卑俗きわまる慢心を起し、いかにも坊ちゃんと言われてふさわ・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・沢田先生は、私を教員室にお呼びになって、慢心してはいけない、自重せよ、と言ってお叱りになりました。私は、くやしく思いました。けれども、まもなく小学校を卒業してしまいましたので、そのような苦しさからは、どうやら、のがれる事が出来たのでした。お・・・ 太宰治 「千代女」
・・・これは天然の深さと広さを忘れて人間の私を買いかぶり思い上がった浅はかな慢心の現われた結果であろう。ことしの二科会では特にひどくそういう気がして私にはとても不愉快であった。もっともその日は特に蒸し暑かったのに、ああいう、設計者が通風を忘れてこ・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・これは天然の深さと広さを忘れて人間の私を買いかぶり思い上がった浅墓な慢心の現われた結果であろう。今年の二科会では特にひどくそういう気がして私にはとても不愉快であった。尤もその日は特に蒸暑かったのに、ああいう、設計者が通風を忘れてこしらえた美・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・米国講演の旅から帰った時新聞記者に話したという我学界への苦言にも、日本の学者が慢心するのを心配している心持が十分に酌み取られる。 同じような内省的な傾向から、自分でも人でもいわゆる「大家」になることを恐れていた。かつて筆者が不精で顋鬚を・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・たまたま強い香気があるとすれば、それはコケおどしに腐心する山気の匂いであり、筆先の芸当に慢心する凝固の臭いであって、真に芸術家らしい独自な生命燃焼の匂いではない。もしこの種の外形的な努力が反省なしに続けて行かれるならば、日本画は低級芸術とし・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫