・・・日本の皇族、貴族は、人民生活にまじって来たのだが、そういう旧皇族、貴族が自分たちの間にまじって来たことで、日本の一部の自由主義者は、まじって来た人たちを平静な市民生活に馴らしてゆこうとするよりも、その珍らしさに自分たちの方から亢奮して、裏が・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・息子はペタルを踏み馴らした逞しい片足で果物を蹴っていた。果物屋の横には外科医があった。そこの白い窓では腫れ上った首が気惰るそうに成熟しているのが常だった。 彼はこれらの店々の前を黙って通り、毎日その裏の青い丘の上へ登っていった。丘は街の・・・ 横光利一 「街の底」
・・・ 家の棟に烏が一羽止まっている。馴らしてあるものと見えて、その炭のような目で己をじっと見ている。低い戸の側に、沢の好い、黒い大きい、猫が蹲って、日向を見詰めていて、己が側へ寄っても知らぬ顔をしている。 そこへ弦のある籐の籠にあかすぐ・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫