・・・これで、羽を馴らすらしい。また一組は、おなじく餌を含んで、親雀が、狭い庭を、手水鉢の高さぐらいに舞上ると、その胸のあたりへ附着くように仔雀が飛上る。尾を地へ着けないで、舞いつつ、飛びつつ、庭中を翔廻りなどもする、やっぱり羽を馴らすらしい。こ・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・凡人の腕で、猛獣を馴らすように、馴らされた秘密の力がある。扣鈕を掛けたジャケツの下で、男等の筋肉が、見る見る為事の恋しさに張って来る、顫えて来る。目は今までよりも広くかれて輝いている。「ええ。あの仲間へ這入ってこの腕を上げ下げして、こちとら・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・ 悍馬を慣らす顛末は、もちろん編集の細工が多分にはいってはいるであろうが、あばれるときのあばれ方はやはりほんとうのあばれ方で寸毫の芝居はないから実におもしろい。 この映画を見て、自分ははじめて悍馬の美しさというものを発見したような気・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・また或る種の人々のように工合よく屈辱に自分を馴らすために物わかりのよい人間に自分を作りなおすことも出来なかった。さりとて当時の若いゴーリキイには一人の青年としてすぐ周囲の環境を変更するだけの力のなかったことは当然である。高まろうとする心、よ・・・ 宮本百合子 「私の会ったゴーリキイ」
出典:青空文庫