・・・……伊達の煙管は、煙を吸うより、手すさみの科が多い慣習である。 三味線背負った乞食坊主が、引掻くようにもぞもぞと肩を揺ると、一眼ひたと盲いた、眇の青ぶくれの面を向けて、こう、引傾って、熟と紫玉のその状を視ると、肩を抽いた杖の尖が、一度胸・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・ 一方科学者のほうではまた、その研究の結果によって得られた科学的の知識からなんらかの人間的な声を聞くことを故意に忌避することがあたかも科学者の純潔と尊厳を維持するゆえんであると考えるような理由のない慣習が行なわれて来た。なるほど物質界の事・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
文化の発展には民族というものが基礎とならねばならぬ。民族的統一を形成するものは風俗慣習等種々なる生活様式を挙げることができるであろうが、言語というものがその最大な要素でなければならない。故に優秀な民族は優秀な言語を有つ。ギリシャ語は哲・・・ 西田幾多郎 「国語の自在性」
・・・ 少年少女時代から一緒に種々様々な行動をして育つ外国の両性たちの間に、細かい礼儀のおきてがあって、たとえば女の子は決して自分の寝室に男の友達を入れないという慣習などは、建物の構造が日本とはちがっているという条件からばかりでなく、やはり一・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・しかしながら、この慣習は女を物件化したと同時に、女の影響によって男の行動が支配されたということは、男の側としてあるまじきことという戒律が厳存した。女子供という表現は、人格以前としての軽侮を示すとともに、男の被保護的な存在と見られていたのであ・・・ 宮本百合子 「暮の街」
・・・特に日本ではそれが一つの謙譲なたしなみのようにさえ見られて来た習慣があるけれども、そういう慣習こそ、わるい意味で女の仕事を中途半端なものにしてしまっていると思います。ポーランドの代表的な婦人作家エリイザ・オルゼシュコの「寡婦マルタ」という小・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・囲がひろがって来ているし、そこへの需要も急速に高まっているけれども、一応独立した一個の働き手として見られている勤労婦人の毎日の生活の細部についてみれば、それぞれ職場での専門技術上の制約があり、男対女の慣習からのむずかしさがあり、更に家庭内の・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
・・・この判決決定の日、裁判長は法廷の慣習を破って判決決定書の主文を先によんだ。このことは誰の眼にも妥当な法律の適用でないという感情をもたせた事実を語っている。前後二十余回に亙って宮本が病苦をおして「懇々」という形容詞をつけてよいほどスパイ摘発の・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ 良心の疚しさを、種々な自他の慣習的弁護で云い繕いながら、粗野な言葉を許されれば、幾十人の女がしたように、糧食と交換に「女性」を提供する、「気」にならずにはすむ訳です。 口実を許す「実際的必要」がなくなれば、口実によって人格を無視す・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・封建時代の日本人がその社会生活から慣習づけられていた感情抑制の必要、美の内攻性及び日本の建築、家具什器の材料に木、紙、竹、土類を主要品とした過去の日本の風土的特徴等が、「さび」を語った場合とりあげられなければならないであろう。 仏教の思・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
出典:青空文庫