・・・すべての人民が自分たちが主人となっての新生活を建設してゆくにふさわしい、自分たちの努力、よろこび、悲しみ、憎み、慰安を語る民主の文学が、生れ出るべき時期になった。古い純文学は、現実生活から特殊な文学的世界へ遊離してしまっていた薄弱さから旧特・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・一日の中、大部分は、其部屋の中に生活するのですから、客間、食堂、寝室などと云うものは、皆、勉強部屋での、深い緊張を緩める処、やや疲れた頭の慰安処として、考案されなければならないのです。 私は、直射する東や南の光線は大嫌いですから――・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・爽やかさから慰安を感じ横わったが、なほ子は容易に眠れなかった。心を張りつめる不安を追って行くと、不安は暗の裡で無限に拡り、なほ子の心を震わす程強かった。これは夢中な心配だ、夢中な心配だ。なほ子は心配で強ばりながらそう思った。生活態度について・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・ この間安倍能成氏が一高の校長となったときの何かの談話で、現代の青年はさまざまの外面的な慰安を求める代り、友情に慰安を求めよ、という意味を云われたということをきいた。安倍さんという人は漱石門下の一人で、昔は「大思想家の人生観」という・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・に陰気になっていても、彼女の年の持つ単純さが、新らしく彼女を取り繞った周囲に対して、驚くべき好奇心、探究心を誘い出し、ことごとに満たされ、ことごとに適度な緊張となる新規な習慣や規則が、実に無量の鼓舞と慰安とを与えたのである。 何だか漫然・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 藤村の自然に対する愛着、自然から慰安も鼓舞も刺戟をも得ようとする態度は、これらの全著作を通じて、特に感想集に横溢していると思う。 この文章のはじめにふれたような幼年・少年時代の特別な境遇のために人に対して簡単に率直でない習慣がつい・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・植民地化されて慰安のストリプト・ティーズが公然演じられるようになると、人間の性が自然に保っているまじめさ、おのずからに精神がそこに浮ぶ性の行為が、こんどは、逆上した露骨さでひろげられている。 矛盾だらけで、本能的で狭い生活から解放されて・・・ 宮本百合子 「人間イヴの誕生」
・・・ 精神的に慰安を受ける或る物を常に頭に置いて考えるので、金もなく、生活に苦しんでも、不義の富をむさぼるよりは意味深いと云う事を云う。けれ共、農民が、何の慰安もなく、確信も主義もなく、只貧しく、只金がなく、冬の長い北の国に日々の生活に追わ・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ ロンブロゾーは、警察官の先入観念に一つの犯罪型という骨相上の分類を加えてやったが、失業と夫婦生活の破壊との生々しい関係、失業と売笑との直接な関係、大多数者の慰安ない生活と低劣なままに繋ぎとめられている文化水準とアルコール中毒との具体的・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ 全く、彼女の家庭は平和な楽しい、品のよい慰安所でした。三人の子供達は、近代文明の許す最高の注意を以て、学位まで持っている家庭教師に褓育されております。雇人は規律正しい。 ロザリーは、朝、勤めている銀行へ出る前の数十分間を、楽しく、・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
出典:青空文庫