・・・私は日々に憔悴し、血色が悪くなり、皮膚が老衰に澱んでしまった。私は自分の養生に注意し始めた。そして運動のための散歩の途中で、或る日偶然、私の風変りな旅行癖を満足させ得る、一つの新しい方法を発見した。私は医師の指定してくれた注意によって、毎日・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・宜川の集団の住居の雪の夜、延吉という西北方の町から、半死半生でたどりついた三人の良人たちについても、そのおそろしい憔悴のさまは描かれているが、延吉というソ同盟軍の町につれられていった三人が、なぜ、どうやってそこにあらわれたのか、当然わかって・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・これだけ手のこんだ構成のなかで、漱石は偽りでかためられている家庭として自分の家庭を感じ、妻直の掴み得ないスピリットを掴もうとして憔悴する一郎の悲劇を追究しているのである。 兄の妻とならなかった頃からの直を二郎が知っているという偶然が、一・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・ 世間でいう相当の家庭の娘たちを集めていた女学校などというものは、結婚も所謂相当なところにされ、そのひとたちの生活が全くその規律のうちに運ばれ、やがては憔悴して、儚いところがある。同じ年の卒業生は一つの組で三十二人ほどであったが、そのな・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
・・・人間らしい女の総ての心が、こんなに家庭と職業との間に引き裂かれて、二重の負担のもとに憔悴することはあり得ない。才能の可能性を認めて、妻であり母であると共に、人間として他の能力も発揮させたいと思っている夫の愛が、妻諸共、かまどに追われる悲劇は・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
出典:青空文庫