・・・ 勿論、演壇または青天井の下で山犬のように吠立って憲政擁護を叫ぶ熱弁、若くは建板に水を流すようにあるいは油紙に火を点けたようにペラペラ喋べり立てる達弁ではなかったが、丁度甲州流の戦法のように隙間なく槍の穂尖を揃えてジリジリと平押しに押寄・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・当時の大官貴紳は今の政友会や憲政会の大臣よりも遥に芸術的理解に富んでいた。 野の政治家もまた今よりは芸術的好尚を持っていた。かつ在官者よりも自由であって、大抵操觚に長じていたから、矢野龍渓の『経国美談』、末広鉄腸の『雪中梅』、東海散士の・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・政友会とか、憲政会とか云えば彼等には分る。だが、既成と、無産になると一寸分りにくい。 社会主義と云えば、彼等は、毛虫のように思っている。 だが、彼等は、その毛虫の嫌う、社会主義によらなければ、永久の貧乏から免れないのだ。 それを・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・一方では憲政会熊本支部にもひそかに出入している男であるが、小野、津田、三吉の労働幹部のトリオがしっかりしているうちは、まだいうことをきいていた。「きみィ、応援するのやろ?」 三吉が黙っていると、「ええわしの方も、ひとつたのむゾ」・・・ 徳永直 「白い道」
九十歳の尾崎行雄が、きこえない耳にイヤ・ホーンをつけて、「ちょっととなりへ行くつもりで」アメリカへ行った。九十歳まで生きている人間そのものが、アメリカで珍らしいわけもない。「日本の憲政」の神様とよばれた彼が九十であるところ・・・ 宮本百合子 「長寿恥あり」
出典:青空文庫