絶望 文造は約束どおり、その晩は訪問しないで、次の日の昼時分まで待った。そして彼女を訪ねた。 懇親の間柄とて案内もなく客間に通って見ると綾子と春子とがいるばかりであった。文造はこの二人の頭をさすって、姉さんの病気は少しは快く・・・ 国木田独歩 「まぼろし」
・・・全集の第三巻に「懇親会」という短篇がある。 此時座敷の隅を曲って右隣の方に、座蒲団が二つ程あいていた、その先の分の座蒲団の上へ、さっきの踊記者が来て胡坐をかいた。横にあった火鉢を正面に引き寄せて、両手で火鉢の縁を押えて、肩を怒らせた・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・「あれは皆新年官民懇親会に行くのヨ。」「それじゃあしも行って見よう。」「おい君も上るのか。上るなら羽織袴なんどじゃだめだヨ。この内で著物を借りて金剛杖を買って来たまえ。」「そうか。それじゃ君待ってくれたまえ。(白衣に著更サア君行こう。富士山・・・ 正岡子規 「初夢」
・・・もし山男が来なかったら、仕方ないからみんなの懇親会ということにしようと、めいめい考えていました。 ところが山男が、とうとうやって来ました。丁度、六時十五分前に一台の人力車がすうっと西洋軒の玄関にとまりました。みんなはそれ来たっと玄関にな・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
同郷人の懇親会があると云うので、久し振りに柳橋の亀清に往った。 暑い日の夕方である。門から玄関までの間に敷き詰めた御影石の上には、一面の打水がしてあって、門の内外には人力車がもうきっしり置き列べてある。車夫は白い肌衣一・・・ 森鴎外 「余興」
出典:青空文庫