・・・ そっちから派遣されてきたオルグの、懲役五年を求刑されていた黒田という人は、立ち上って、「裁判長がそのような問いを発すること自体が、われ/\*****を**するものである。******というものは後で考えていて間違っていたから**すると・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・ 男は、五年の懲役を求刑されたよりも、みじめな思いをした。男の罪名は、結婚詐欺であった。不起訴ということになって、やがて出牢できたけれども、男は、そのときの検事の笑いを思うと、五年のちの今日でさえ、いても立っても居られません、と、やはり・・・ 太宰治 「あさましきもの」
・・・「節子かい。」と男の太い声。 やっぱり勝治である。勝治は三日ほど前に家を出て、それっきりだったのである。「兄さんが牢へはいってもいいかい?」突然そんな事を言った。「懲役五年だぜ。こんどは困ったよ。たのむ。二百円あれば、たすかるんだ。・・・ 太宰治 「花火」
・・・という言葉が、懲役にでも服しているような陰惨な感じがして、これは「服務中」の間違いではなかろうかと思って、ひとに尋ねてみたが、やはりそれは「服役」というのが正しい言い習わしになっていると聞かされ、うんざりした事がある。「酒を飲みたいね。・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・泥棒をして懲役にされた者、人殺をして絞首台に臨んだもの、――法律上罪になるというのは徳義上の罪であるから公に所刑せらるるのであるけれども、その罪を犯した人間が、自分の心の径路をありのままに現わすことが出来たならば、そうしてそのままを人にイン・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・爾薩待(農民等 黙然農民二「いま、もぐり歯医者でも懲役になるもの、人欺して、こったなごとしてそれで通るづ筈なぃがべじゃ。」爾薩待農民二「六人さ、まるっきり同じごと言って偽こいで、そしてで威張って、診察料よ・・・ 宮沢賢治 「植物医師」
・・・いや、それよりもこんなことになるのはどこの国の政治家でもすぐわかる、これはいかんと云うわけでお気の毒ながら諸君をみんな終身懲役にしちまいます。まさか死刑にはなりますまいが終身懲役だってそんないいもんじゃありませんよ。どうです。今のうち懺悔し・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・も、日本の民主化と云われている社会現実の上に、幾重にも折りたたまっている封建の野蛮と無智がおそろしく身に迫る事件ばかりだが、なかに二人のやしない子を育てる苦しさから配給の二重どりしていたのを告発され、懲役になっている中年の女の話があった。み・・・ 宮本百合子 「再版について(『私たちの建設』)」
・・・公判、懲役〔二〕年、執行猶予〔四〕年を言い渡された。予審と公判とを通じて私は文学の階級性を主張することができなかった。七月。保護観察所によって保護観察に附せられた。警視庁の特高課長であった毛利基が主事をしていた。毛利基は宮本の関係した党・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・無期懲役で網走にやられていた重吉は、十二年ぶりで、十月十日に解放された。いが栗に刈られた重吉の髪は、まだ殆どのびていない。 ひろ子は、元禄袖の羽織に、茶紬のもんぺをはいて、実験用の丸椅子にかけ、コンロの世話をやいていた。「さあ、もう・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫