・・・思想家としてのマルクスの功績は、マルクス同様資本王国の建設に成る大学でも卒業した階級の人々が翫味して自分たちの立場に対して観念の眼を閉じるためであるという点において最も著しいものだ。第四階級者はかかるものの存在なしにでも進むところに進んで行・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・稿の成ると共に直ちにこれを東京に郵送して先生の校閲を願ったが、先生は一読して直ちに僕が当時の心状を看破せられた。返事は折返し届いて、お前の筆端には自殺を楽むような精神が仄見える。家計の困難を悲むようなら、なぜ富貴の家には生れ来ぬぞ……その時・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・ その内に思案して、明して相談をして可いと思ったら、謂って見さっせえ、この皺面あ突出して成ることなら素ッ首は要らねえよ。 私あしみじみ可愛くってならねえわ。 それからの、ここに居る分にゃあうっかり外へ出めえよ、実は、」 と声・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・僕は、あの時成る程離縁問題が出た筈やと思た。」「成る程、これからがいよいよ人の気が狂い出すという幕だ、な。」「それが、さ、君忘れもせぬ明治三十七年八月の二十日、僕等は鳳凰山下を出発し、旅順要塞背面攻撃の一隊として、盤龍山、東鷄冠山の・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・僅かに『神稲水滸伝』がこれより以上の年月を費やしてこれより以上の巻を重ねているが、最初の構案者たる定岡の筆に成るは僅かに二篇十冊だけであって爾余は我が小説史上余り認められない作家の続貂狗尾である。もっともアレだけの巻数を重ねたのはやはり相当・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・とある其事である(約翰、単に神の子たるの名称を賜わる事ではない、実質的に神の子と為る事である、即ち潔められたる霊に復活体を着せられて光の子として神の前に立つ事である、而して此事たる現世に於て行さるる事に非ずしてキリストが再び現われ給う時に来・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・わる事ではない、実質的に神の子と為る事である、即ち潔められたる霊に復活体を着せられて光の子として神の前に立つ事である、而して此事たる現世に於て行さるる事に非ずしてキリストが再び現われ給う時に来世に於て成る事であるは言わずして明かである、平和・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・こう成るとは、ちゃんと見通していたのだ。 良いか。言ってやるぞ。……お前から手を引いた時、おれは既にお前の「今日ある」を予想していたのだ。だからこそ、手を引いた。お前の方では、おれを追い出してやったと、思っているらしいが、違う。おれの方・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・今に楽になりますよ、成る丈け安静にして居なさい」 これは毎日おきまりの様に聞く言葉でした。そして、医師は病人の苦しんでいるのを見かねて注射をします。再びまた氷で心臓を冷すことになりました。 その頃から、兄を呼べとか姉を呼べとか言い出・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・と誰かが気の無い返事を為る。「全くあの男ほど気の毒な人はないよ」と老人は例の哀れっぽい声。 気の毒がって下さる段は難有い。然し幸か不幸か、大河という男今以て生ている、しかも頗る達者、この先何十年この世に呼吸の音を続けますことやら。憚りな・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
出典:青空文庫