・・・詩とそれらとの関係は、日々の帳尻そうして詩人は、けっして牧師が説教の材料を集め、淫売婦がある種の男を探すがごとくに、何らかの成心をもっていてはいけない。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 粗雑ないい方ながら、以上で私のいわん・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・サ行の音が多いにちがいないと思ったりする、その成心に妨げられたのです。然し私は小さいきれぎれの言葉を聴きました。そしてそれの暗示する言語が東京のそれでもなく、どこのそれでもなく、故郷の然も私の家族固有なアクセントであることを知りました。――・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・ 批評でも書いてみようという成心を持っていない、通り一遍の観覧者の多数は、おそらくこういう感じを抱いて洋画の方へ移って行くに相違ない。新聞雑誌に現われる短評などにも随分こういう心持をそのままに云い表わしたのが多いように見える。それで多く・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・ 成心く真心から書かれたこの一篇の小説は一八九二年のロシアの文壇に新しい時代の黎明を告げたばかりではなかった。「マカール・チュードラ」を貫いて流れている熱い生活力、不撓な意志、卑劣を侮蔑する強い精神、感情そのものは、ゴーリキイが自ら悟っ・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫