・・・一つの種子の生命は土壌と肥料その他唯物的の援助がなければ、一つの植物に成育することができないけれども、そうだからといって、その種子の生命は、それが置かれた環境より価値的に見て劣ったものだということができないのと同じことだ。 しかるに空想・・・ 有島武郎 「想片」
・・・植物界広しといえどもユトランドの荒地に適しそこに成育してレバノンの栄えを呈わす樹はあるやなしやと彼は研究に研究を重ねました。しかして彼の心に思い当りましたのはノルウェー産の樅でありました、これはユトランドの荒地に成育すべき樹であることはわか・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・われわれは具体的共同体、くにの中に生を得て、その維持に必要な衣食と精神文化とを供せられて成育するのである。共同体の基本は父母であり、氏族であり、血と土地と言語と風習と防敵とを共同にするところの、具体的単位がすなわちくになのである。共生という・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・でさへも、相当に成育した一般の文化常識と、特に敏感な詩人的感覚とを所有しない読者にとつては、決して理解し易い書物ではない。 ニイチェの理解に於ける困難さは、彼の初期に於ける少数の著書論文を除いて、その後の者が多くアフォリズムの形式で書か・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・それらは、より豊かにより豊かにと、成育しなければならないのである。 そして、小さいながらも充実した文化をもつ人民の日本として、晴れ晴れと、自信にみちた明るい瞳をもって世界に登場しようと希うのである。〔一九四六年五・六月〕・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・も、初めの頃は何かを人生的な欲求として求めている読者の心理をとらえて、しかも現実の答えとしては背中合せの本質をもつ作品が与えられていたのであったが、現実への作者たちの向きかたは、その作品の世界の拡大や成育を可能にせず、常識がAと云っているこ・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・新しいモラルを、おのずから青春の裡に蔵して成育して来ている筈の若い世代の今日の生活の実状はどういう風であろうか。この探求と再認識との要求は、一九三六年の夥しい、青年論・恋愛論となって溢れた。河合栄治郎氏は教育者としての見地から、今日における・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・しかし、これは、評論家としてのこの著者の内にある、よいものが頂点まで育ち切っていないと云うことで、正当な成育を阻む性質のものがあるという意味ではないと思う。 多くの作家たちにも恐らくこの評論集は読まれたことだろう。それらの人々の心にどん・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・ けれども、真の意味に於て、女性を成育させて行くのは、何と云っても第二の部類に属する人々だろうと存じます。 健全な体躯と、明快な理智と、馴練された感情は、光栄な何等かの理想を彼女の魂の裡に植えつけます。そして、緻密な理論的考察と、自・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・正当な成育力がないことの左証である。科学上の原理の発展への努力、その努力によってもたらされた成果の後を応用的な部面が跟いてゆくのは必然であって、日本の科学性というものは、歴史との関係から見てもこの意味でどの程度自給自足であるのか。そのことも・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
出典:青空文庫