・・・ 坂田は無学文盲、棋譜も読めず、封じ手の字も書けず、師匠もなく、我流の一流をあみ出して、型に捉えられぬ関西将棋の中でも最も型破りの「坂田将棋」は天衣無縫の棋風として一世を風靡し、一時は大阪名人と自称したが、晩年は不遇であった。いや、無学・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・近代将棋の合理的な理論よりも我流の融通無碍を信じ、それに頼り、それに憑かれるより外に自分を生かす道を知らなかった人の業のあらわれである。自己の才能の可能性を無限大に信じた人の自信の声を放ってのた打ちまわっているような手であった。この自信に私・・・ 織田作之助 「勝負師」
・・・強烈な火の急流のようなアンナ、または男がいつも我流に女を愛して平然としていることその他、女性の家庭生活の不満に充分苦しみながら「でも、大半は婦人に敵対している社会で、一人で生活しなければならない女性の生活の恐ろしさ」の前にちぢんで、諦めの力・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・るという我流の仕事ぶりを持っていた。そのためにバルザックの作品の校正は植字工にとって恐ろしい仕事であったばかりでなく、作者自身にとっても驚くべき大仕事であったらしい。「数時間後、炯々たる眼光のずんぐりした男が、着物を乱し、でこぼこ帽子をかぶ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫