・・・もっとも戦局がこうなって来れば、もう威張るよりほかに、存在の示し方がないと思ってるんだろう。――俺は兵隊として、蓄音機の侮辱を我慢するが、人間としてもう我慢できない。赤井、君は我慢できるか」「いや、出来ん。あいつは、今日半日のうちに、俺・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・雨が降って地面が柔らかくなり、ナポレオンが力と頼む砲兵の活動に不便なために戦闘開始を少し延ばしたばかりにブリュヘルが間に合って戦局が一変したと云うのである。これは文学者の誇張であるかもしれないが、こういう例は史上に珍しくはあるまい。同じ筆法・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・何しろ戦局切迫ということを旗印として努力させられたから、決して八時間七時間というような労働時間では済まなかったし、婦人の肉体にとって極めて有害ないろいろの化学薬品などを取扱う爆弾、弾丸、ガス製作の職場でも、婦人の労働は長い時間強要された。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・しかし、戦局は全面的に日本の敗色に傾いている空襲直前の、新緑のころである。噂にしても、誰も明るい噂に餓えかつえているときだった。細やかな人情家の高田のひき緊った喜びは、勿論梶をも揺り動かした。「どんな武器ですかね。」「さア、それは大・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫