・・・戦勝国の戦後の経営はどんなつまらない政治家にもできます、国威宣揚にともなう事業の発展はどんなつまらない実業家にもできます、難いのは戦敗国の戦後の経営であります、国運衰退のときにおける事業の発展であります。戦いに敗れて精神に敗れない民が真に偉・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・またロシアの饑饉に対し、オーストリー・ハンガリーの饑饉に対し、若しくは戦後のドイツに対して世界人類の取るべき手段は他に幾らもあったであろう。四 然しそればかりではなく、原始キリスト教の精神、いわゆるキリストの教というものと今日の・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
僕は終戦後間もなくケストネルの「ファビアン」という小説を読んだ。「ファビアン」は第一次大戦後の混乱と頽廃と無気力と不安の中に蠢いている独逸の一青年を横紙破りの新しいスタイルで描いたもので、戦後の日本の文学の一つの行き方を、・・・ 織田作之助 「土足のままの文学」
・・・それに、借着をすれば、手間がはぶけて損料を払うだけでモーニングだとか紋附だとか――つまり実存主義は、戦後の混乱と不安の中にあるフランスの一つの思想的必然であります。このような文学こそ、新しい近代小説への道に努力せんとしている僕らのジェネレー・・・ 織田作之助 「猫と杓子について」
・・・かれが心のはげしき戦いは昨夜にて終わり、今は荒寥たる戦後の野にも等しく、悲風惨雨ならび至り、力なく光なく望みなし。身も魂も疲れに疲れて、いつか夢現の境に入りぬ。 林あり。流れあり。梢よりは音せぬほどの風に誘われて木の葉落ち、流れはこれを・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・独歩は、それについて何等の説明も附してはいないし、或は気がつかなかったかもしれないが、今日からかえり見て想像を附加すると、既に戦後の三国干渉に到る関係が、その時から現れていたようで興味が深い。 独歩の眼に士官階級以上しか映じなかったより・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・という文芸雑誌の、まあ、編輯部次長というような肩書で、それから三年も、まるで半狂乱みたいな戦後のジャアナリズムに、もまれて生きてまいりました。 その終戦直後に、僕が栃木県の生家から東京へ出て来た時には、東京の情景、見るもの聞くもの、すべ・・・ 太宰治 「女類」
・・・の筆者が、戦後には、まことに突如として、内村鑑三先生などという名前が飛び出し、ある雑誌のインターヴューに、自分が今日まで軍国主義にもならず、節操を保ち得たのは、ひとえに、恩師内村鑑三の教訓によるなどと言っているようで、インターヴューは、当て・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・五十人の研究の中でただの一つでも有利な結果が飛び出せば、それから得られる利益で、学者の五十人くらい一生飼い殺しにしても、なお多大の収益があるからとのことであった。戦後の世智辛さではどうなったかそれは知らない。とにかく日本などでは、まだなかな・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・ わたくしは戦後人心の赴くところを観るにつけ、たまたま田舎の路傍に残された断碑を見て、その行末を思い、ここにこれを識した。時維昭和廿二年歳次丁亥臘月の某日である。 ○ 千葉街道の道端に茂っている八幡不知の藪・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
出典:青空文庫