・・・ 人をだまして、そうしてそれを「戦略」と称していた。 プロレタリヤ文学というものがあった。私はそれを読むと、鳥肌立って、眼がしらが熱くなった。無理な、ひどい文章に接すると、私はどういうわけか、鳥肌立って、そうして眼がしらが熱くなるの・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・だから結婚などと申しましても、何も女の幸福ということが眼目ではございませんで、昔からたくさんあるいろいろなお話をお読みになってもわかる通りに、戦国時代の女の人と申しますのは、父や兄という人達が戦略上自分が一番喧嘩しそうな敵へ人質として自分の・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・日本と米国そのものが人民の平和より何より先に戦略的な地点として考えられるような考えかたに麻痺させられず、世界の軍備縮少を要求しアジアにおいてそれを実現させる力となって行かなければならないと思う。 去年もおしつまった十二月四日から一週間日・・・ 宮本百合子 「世界は求めている、平和を!」
・・・の生きている戦略的な地点として扱われることがあってはならない、と。近くもたれようとしているアジアの国際婦人民主連盟の大会でわたしたち日本の女性は、自分たちと世界の災厄をふせぐために、ベトナムの若い代表婦人が、ブダペストから世界の良心にアッピ・・・ 宮本百合子 「人間イヴの誕生」
・・・軍部の暴圧をしのんで艱難な日々をしのいでいた何の抵抗力ももたないおとなしい人民の男女、老人子供たちが、日本列島を戦略地点として確保することをいそいだ原爆によって、屍を重ねたのだった。 残酷、破壊という字を知っていないもののようにくりかえ・・・ 宮本百合子 「「人間関係方面の成果」」
・・・彼等の主人、ブルジョアジーの戦略戦術が千変万化であるように、ブルジョア作家の反動化は千変万化だ。 ブルジョア大衆文学の才人直木三十五は、ついこの間「ファッシズム宣言」と云う啖呵文を読売紙上に発表して、三上於菟吉と共に民間ファッショの親玉・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
・・・日本のプロレタリア革命が民主主義革命を前提とするものであり、日本におけるファッシズムは、すなわち封建的地主的絶対主義であることが明らかにされた今日、プロレタリア文学の戦略は、特に農民文学の面でこそ重大な展開をとげるべき時に立ち到っているので・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・ 武家時代、婦人の生活は全くその父兄達の、戦略の便宜に支配された。結婚はすっかり政略結婚になって、夫婦の情愛とか、母子の愛情は無慙に蹂み躙られた。兄や父親の政治的な利害に従って、いじらしい婦人達は、あの城主からこの城主へと、夫を換えさせ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ 畑は快男子である。戦略戦術の書を除く外、一切の書を読まない。浄瑠璃を聞いても、何をうなっているやらわからない。それが不思議な縁で、ふいと浪花節と云うものを聴いた。忠臣孝子義士節婦の笑う可く泣く可く驚く可く歎ず可き物語が、朗々たる音吐を・・・ 森鴎外 「余興」
・・・軍法の巻においてさえも、その主要な関心は、戦術や戦略の末ではなくしてその「もと」を探ることにあった。よき軍法の「もと」はよき采配である。よき采配のもとはよき法度である。よき法度のもとは正直・慈悲・智慧である。これが軍法の原理なのである。そう・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫