・・・その頃はモウかなり戦術が開けて来たのだが、大将株が各自に自由行動を取っていて軍隊なぞは有るのか無いのか解らない。これに対抗する里見勢もまた相当の数だろうが、ドダイ安房から墨田河原近くの戦線までかなりな道程をいつドウいう風に引牽して来たのやら・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ また職業上の自由競争とか、生活上の戦術とかいうようなものも、思う存分やっていい。ただそれに即して直ちに念仏のこころがあればいいのである。浄土真宗の信仰などはそれを主眼とするのである、信仰というものをただ上品な、よそ行きのものと思っては・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・我軍の戦術もよかったし、将卒も勇敢に奮闘した。これで西伯利亜のパルチザンの種も尽きるでありましょう。と、ね。」「はい。――若し、我軍の損傷は? ときかれましたら、三人の軽傷があったばかりであります。その中、一人は、非常に勇敢に闘った優秀・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・その訳は、人間の頭で考え得られる大概の事は昔のギリシア人が考えてしまっている、それだからギリシアの戦術を研究すれば何かしらきっと今度の戦争に役に立つような、参考になるようなうまい考えの掘出しものが見付かるだろう、というのであった。それで大勢・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ その戦術は、彼のに帰れば、どの仲間もその方法に拠った、唯一の道であった。 が、乳色の、磨硝子の靄を通して灯を見るように、監獄の厚い壁を通して、雑音から街の地理を感得するように、彼の頭の中に、少年が不可解な光を投げた。 靄の先の・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・火野葦平が、文芸春秋に書いたビルマの戦線記事の中には、アメリカの空軍を報道員らしく揶揄しながら、日本の陸軍が何十年か前の平面的戦術を継承して兵站線の尾を蜒々と地上にひっぱり、しかもそれに加えて傷病兵の一群をまもり、さらに惨苦の行動を行ってい・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ 党は、青年部にそういう消極的な戦術についての指令は、どんな時にでも与えたことはなかったというのが、第一の若い大衆からの批判であった。まして、社会主義的戦線の拡大と強化に熱中している一九二八年以来の実際に即して観察すれば、作家ベズィメン・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・しかし、「戦術的には従来の共産党諸氏のやりかたには、与し得ない」として、左右両翼の反作用の時を、袖手傍観しないで促進するためにもと、世界人権宣言に改めて深い関心をよせている。 一九四九年の社会政治現象に対してこのような態度を示している中・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ちゃんと心理的にそういう戦術をつかった。このことは、将校教育をうけた人は知っていよう。「軍服」は、何年ごろの、軍隊経験であったかということを作者は、はっきり書いていない。小さいことのようだが、これはこの作品の真実性のために大切である。も・・・ 宮本百合子 「小説と現実」
・・・は敵階級のかような新手な戦術を暴露し、プロレタリアートの下からの統一戦線の重要性を示し、反動政策の新段階を暴露している。「党生活者」を読む場合、以上の点は見落としてならぬところである。『読売新聞』で、杉山平助氏が「党生活者」第六部を批評・・・ 宮本百合子 「小説の読みどころ」
出典:青空文庫