・・・』『それどころじゃない、花道ばかりで何年とか費るそうだ』『好い加減にして幕をあけ給え』『だって君、何処まで行っても矢張青い壁なんだ』『戯言じゃないぜ』『戯言じゃないさ。そのうちに目が覚めたから夢も覚めて了ったんだ。ハッハ・・・ 石川啄木 「火星の芝居」
・・・ こんな調子に、戯言やら本気やらで省作はへとへとになってしまった。おはまがよそ見をしてる間に、おとよさんが手早く省作のスガイ藁を三十本だけ自分のへ入れて助けてくれたので、ようやく表面おはまに負けずに済んだけれど、そういうわけだから実はお・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・彼の言は、戯言である。けれども、実際わたくしとしては、その当時が死すべきときであったかも知れぬ。死に所をえなかったがために、今のわたくしは、「えらいもんだ」にならないで、「馬鹿なやつだ」「わるいやつだ」になって、生き恥をさらしている。もしこ・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・彼れの言は戯言である、左れど実際私としては其当時が死すべき時であったかも知れぬ、死処を得ざりしが為めに、今の私は「偉いもんだ」にならないで「馬鹿な奴だ」「悪い奴だ」になって生き恥じを晒して居る、若し此上生きれば更に生恥じが大きくなるばかりか・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・「戯言は戯言だが、さッきから大分紛雑てるじゃアないか。あんまり疳癪を発さないがいいよ」「だッて。ね、そら……」と、吉里は眼に物を言わせ、「だもの、ちッたあ疳癪も発りまさアね」「そうかい。来てるのかい、富沢町が」と、西宮は小声に言・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・これもと一場の戯言なりとはいえども、この戯言はこれを欲するの念切なるより出でしものにして、その裏面にはあながちに戯言ならざるものありき。はたしてこの戯言は同氏をして蕪村句集を得せしめ、余らまたこれを借り覧て大いに発明するところありたり。死馬・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ その家のわきを通るとその娘の笑う高い声や戯言を云うのがきこえ夜の静かな中に高くて細い歌声がこまかくふるえて遠くまでひびいて居る事もあった。 高い張った声とはっきりした身なりは仙二がどうしても忘れる事は出来なくなった。 一言自・・・ 宮本百合子 「グースベリーの熟れる頃」
出典:青空文庫