-
・・・ 虫の息の親父は戸板に乗せられて、親方と仲間の土方二人と、気抜けのしたような弁公とに送られて家に帰った。それが五時五分である。文公はこの騒ぎにびっくりして、すみのほうへ小さくなってしまった。まもなく近所の医者が来る事は来た。診察の型だけ・・・
国木田独歩
「窮死」
-
・・・彼は勘次の家の小屋から戸板に吊られて新しい小屋まで運ばれた。 勘次は自分の手から全く安次が離れていったのだと思うと、今迄の安次に向っていた自分の態度は、尽く秋三に動かされていた自分の頭の所作事であったと気が附いた。けれども別に何の悔い心・・・
横光利一
「南北」