・・・もちろんこれは君の性分にもよるだろう、しかしそれはどちらでもいい、ともかく一心専念にやっているという事が僕は君の今日成功している所以だと信ずる、成功とも! 教育家としてこの上の成功はないサ。父兄からは十二分の信用と尊敬とを得て何か込み入った・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・ そもそもまたかく祈る所以の者は、自然は決して彼を愛せし者に背かざりしをわれ知ればなり。われらの生涯を通じて歓喜より歓喜へと導くは彼の特権なるを知ればなり。彼より享くる所の静と、美と、高の感化は、世の毒舌、妄断、嘲罵、軽蔑をしてわれらを・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・それどころか自分の社会革新の思想の正しい所以を合理的に根拠づけんとするやみがたい要求から自ら倫理学を発表さえもしている。アナーキストとして有名なクロポトキンには著書『倫理学』があり、マルクス主義運動家時代のカウツキーにさえ『倫理学と唯物史観・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 学生時代に女性侮蔑のリアリズムを衒うが如きは、鋭敏に似て実は上すべりであり、決して大成する所以ではないのである。すべてを順直にということが青年のモットーでなければならぬ。ませた青年になろうとするな。大きく、稚なく、純熱であれ。それがや・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・婦燭を執りて窟壁の其処此処を示し、これは蓮花の岩なり、これは無明の滝、乳房の岩なりなどと所以なき名を告ぐ。この窟上下四方すべて滑らかにして堅き岩なれば、これらの名は皆その凸く張り出でたるところを似つかわしきものに擬えて、昔の法師らの呼びなせ・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・そのいろいろに異なって居る所以は、即ち「時代」により「処」によりて「人の胸中の人物」が生れたり活きたり死んだりする所以で、人の胸中の人物もあたかも実の人であるかの如くであるのであります。馬琴時代の「人の胸中の人物」は、紫式部時代の「人の胸中・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・是れ先生の文章の常に真気惻々人を動かす所以であって、而も陽春白雪利する者少き所以である。而して単に其文字から言っても、漢文の趣味の十分に解せられない今日に於て、多数人士の愛読する所とならぬは当然である。先生「一年有半」中に、 夫文人・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・ これ傳説の傳説たる所以にして、堯は天に、舜は人に、禹は地に、即ちかの三才の思想に假托排列せられしものなるを知る也。 更に之をその内容より觀察するに、堯典には帝が羲・和二氏に命じて天文を觀測せしめ民に暦を頒ちしをいひ、羲仲を嵎夷に居・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・驚いて度を失い、ただうろうろして見せるだけで、それが芸術家の純粋な、所以なのですか。おそれいりました。」と、私は自分ながら、あまり、筋の通ったこととも思えないような罵言をわめき散らして、あの人をむりやり、扉の外へ押し出し、ばたんと扉をしめて・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ 私は名誉の家の所以を語り、重ねてまた大隅君の無感動の態度を非難した。「きょうはじめてお嫁さんと逢うんだというのに、十一時頃まで悠々と朝寝坊しているんですからね。ぶん殴ってやりたいくらいだ。」「喧嘩をしちゃいかん。どうも、同じク・・・ 太宰治 「佳日」
出典:青空文庫