・・・ある研究所の廊下に所員の姓名を記した木の札が掛け並べてある。片側は墨で片側は朱で書いてあるのを、出勤したときは黒字の方を出し、帰るときは裏返して朱字の方を出しておくのである。粗末な白木の札であるから新入りでない人の札はみんな手垢で薄黒く汚れ・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ギャラップの世論調査所員の大多数は女子で、アンケートの送りさきは彼女たちの任意とされていた。彼女たちが労働者や下層民をさけたために、民主党を支持する人民層の意見が反映しなかったのだろうと、東京新聞で小山栄三が書いている。 ギャラップの世・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ために国男はじめ所員一同具体的な生活的な面で安心して居られず、という有様です。せちがらさを、この老大家は道徳的見地でだけ批判して居られるのですから。もっとも御自身の経済はせちがらさに動かされないからそうなるのでしょうけれども。 江井のこ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ いま新京を遁走するという八月九日の夜、観象台の課長であった著者の良人が、責任感から、他の所員を引揚団の団長にして自分は一応残留したという事実に、読者は、そのときその人の妻が良人に向っていった言葉とは、ちがった行為の価値を見いだす。妻は・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
出典:青空文庫