・・・方便を知らず、なおまた身辺に世俗の雑用ようやく繁く、心ならずも次第にこの道より遠ざかり、父祖伝来の茶道具をも、ぽつりぽつりと売払い、いまは全く茶道と絶縁の浅ましき境涯と相成申候ところ、近来すこしく深き所感も有之候まま、まことに数十年振りにて・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・『たけくらべ』第十回の一節はわたくしの所感を証明するに足りるであろう。春は桜の賑ひよりかけて、なき玉菊が燈籠の頃、つづいて秋の新仁和賀には十分間に車の飛ぶことこの通りのみにて七十五輌と数へしも、二の替りさへいつしか過ぎて、赤蜻蛉田圃・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・ この間帝国座の二宮君が来て、あなたの明治座の所感と云うものを読んだが、我々の神経は痲痺しているせいだか何だかあなたの口にするような非難はとうてい持ち出す余地がない、芝居になれたものの眼から見ると、筋なぞはどんなに無理だって、妙だって、・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
特に、此処で述べなければならないような所感も持合わせません。〔一九二二年十二月〕 宮本百合子 「特に感想なし」
・・・今日までの日本文学の歴史と、その歴史の中にあって成育して来た自分たち作家一人一人の文学業績の内部から追求した発展の足どりとして、それ等の所感は書かれていなかった。いずれも、時代の急転を切迫して肌に感じ、作家も今までのようにしている時代ではな・・・ 宮本百合子 「平坦ならぬ道」
・・・河豚礼讚、文芸雑誌の今昔などというところから、次第に様々の話題へ展開しているこの記事は、特に最後の部分、二・二六と大震災当時の心境についてそれぞれの出席者が所感を語っている部分に至って、読者の感想を喚び出す幾多のものを示している。徳田秋声、・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
出典:青空文庫