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・・・ 中 佐伯の子弟が語学の師を桂港の波止場に送りし年も暮れて翌年一月の末、ある日源叔父は所用ありて昼前より城下に出でたり。 大空曇りて雪降らんとす。雪はこの地に稀なり、その日の寒さ推して知らる。山村水廓の民、河より・・・
国木田独歩
「源おじ」
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・・・そして、涼台に集って雑談に耽っていると八時頃、所用で福井市に出かけていた家兄が、遽しい様子で帰って来た。私共の呑気な「おかえりなさい」と云う挨拶に答えるなり、彼は息を切って、「東京はえらいこっちゃ」と云った。 私共がききかえす間・・・
宮本百合子
「私の覚え書」