・・・のみならず私も面識がある、王氏の手中に入ったのです。昔は煙客翁がいくら苦心をしても、この図を再び看ることは、鬼神が悪むのかと思うくらい、ことごとく失敗に終りました。が、今は王氏の焦慮も待たず、自然とこの図が我々の前へ、蜃楼のように現れたので・・・ 芥川竜之介 「秋山図」
・・・ブルジョアジーをなくするためには、この階級が自己防衛のために永年にわたって築き上げたあらゆる制度および機関をプロレタリアの手中に収め、矛を逆にしてブルジョアジーを亡滅に導かねばならぬ。ブルジョアジーが亡滅すれば、その所産なるすべての制度およ・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・お手本を破れ、二十世紀の新しい芸術は君たちの手中に在ると大声で煽動せられても、私は苦しく顔をゆがめて笑っただけでした、という事だけを申し上げて、その余の愚痴めいた事は、言わない事にいたしましょう。私もどうやら、あなたと同様に、十九世紀の作家・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・要するに取捨興廃の権威共に自己の手中にはない事になる。したがって自分が最上と思う製作を世間に勧めて世間はいっこう顧みなかったり自分は心持が好くないので休みたくても世間は平日のごとく要求を恣にしたりすべて己を曲げて人に従わなくては商売にはなら・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・畢竟記者は婚姻契約の重きを知らず、随て婦人の権利を知らず、恰も之を男子手中の物として、要は唯服従の一事なるが故に、其服従の極、男子の婬乱獣行をも軽々に看過せしめんとして、苟も婦人の権利を主張せんとするものあれば、忽ち嫉妬の二字を持出して之を・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・否な、夫の心次第にて、極楽もあり地獄もあり、苦楽喜憂恰も男子手中の玩弄物と言うも可なり。斯くまでに不安心なる女子の身の上に就き、父母たる者が其行末を案じて為めに安身立命の法を講ずるは親子天然の至情ならずや。即ち女子の為めに文明教育の大切なる・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫