・・・男は、あほう鳥をひとり手放すのを気遣って、自分も学校まで先生といっしょについていきました。 こんなことから、男は、多数の生徒らに向かって、昔、南のある町を歩いているときに、子供を助けたこと、それから、その子供といっしょに働いたこと、子供・・・ 小川未明 「あほう鳥の鳴く日」
・・・で、蓄えていたところの珍貴な品を段と手放すようになった。鼎は遂に京口のきしょうほうの手に渡った。それから毘陵の唐太常凝菴が非常に懇望して、とうとう凝菴の手に入ったが、この凝菴という人は、地位もあり富力もある上に、博雅で、鑒識にも長け、勿論学・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・そうして帰途は必ず、何くそ、と反骨をさすり、葛西善蔵の事が、どういうわけだか、きっと思い出され、断乎としてこの着物を手放すまいと固執の念を深めるのである。 単衣から袷に移る期間はむずかしい。九月の末から十月のはじめにかけて、十日間ばかり・・・ 太宰治 「服装に就いて」
・・・村の古老は、一種の郷土的愛から、その自治権を失うことを惜しみ、或者は村会議員として与えられて居た名誉職を手放す事をなげく。 然し郡山の町民は或優越を感じて居るらしい。今日来た郡山の新聞記者は、明にその傾向を語ると共に、そう云う一つの変動・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
出典:青空文庫