・・・そして手真似で、もう時間だぜ、と云った。 私は慌てた。男が私の話を聞くことの出来る距離へ近づいたら、もう私は彼女の運命に少しでも役に立つような働が出来なくなるであろう。「僕は君の頼みはどんなことでも為よう。君の今一番して欲しいことは・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・余は再び手真似を交ぜて解剖的の説明を試みた所が、女主人は突然と、ああサンゴミか、というた。それならば内の裏にもあるから行って見ろというので、余は台所のような処を通り抜けて裏まで出て見ると、一間半ばかりの苗代茱萸が累々としてなって居った。これ・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・その男松川やの細君の手真似をする――手をずーっととあげて。やがて、ギーアをかえ爆音つよし「ほらのぼりだな、音でわかっるね、こういう音は馬力を出して居るに違いない 音でわかりますよ」 うるさい、うるさい H・Kのいたず・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・ 母は十分に口が利けなくなッたので仕方なく手真似で仔細を告げ知らせた。告げ知らせると平太の顔はたちまちに色が変わッた。「さらばあのくさりかたびらの……」 言いかけたがはッと思ッて言葉を止めた。けれどこなたは聞き咎めた。「和主・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫