・・・この意味では、日本の婦人たちが日々の辛苦をしのいでいる手腕は、しようがないどころのさわぎではない。おどろくべき根づよさをもっている。それだのに、問題が直接家庭の内からはみ出した大きいことと思われる場合、特に政府のやることとなると、日本の婦人・・・ 宮本百合子 「しようがない、だろうか?」
・・・ こうして見ると、作家は時代が苦しいとき、あながち文才を駆使して、現実整理の手腕を振うことを求められているものでもないことが、改めて思われる。然しそのことは、小説らしくない小説を書いて見せるという極く所謂小説家らしい方法、の肯定となるの・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・とならんで、一般文学愛好家の間にまでいわゆる文章道の職人的手腕に対する関心をかき起した。 今日の社会的段階にあって、リアリズムはそれが客観的現実を反映するリアリズムであるならば社会主義的リアリズム以外に内容され得ない。その必然を理解しな・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・そして別当の手腕に対して、少からぬ敬意を表せざることを得なかった。 石田は鶏の事と卵の事とを知っていた。知って黙許していた。然るに鶏と卵とばかりではない。別当には systmatiquement に発展させた、一種の面白い経理法があって・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・殊に彼はルイザを娶ってから彼に皇帝の重きを与えた彼の最も得意とする外征の手腕を、まだ一度も彼女に見せたことがなかった。 ナポレオン・ボナパルトのこの大遠征の規模作戦の雄大さは、彼の全生涯を通じて最も荘厳華麗を極めていた。彼は国内の三十万・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・ そう思うと、彼は今一段自分の狡猾さを増して、自分から明らかに堂々と以後一家で負う可き一切の煩雑さを、秋三に尽く背負わして了ったならば、その鮮かな謀叛の手腕が、いかに辛辣に秋三の胸を突き刺すであろうと思われた。 彼は初めて秋三に復讐し終・・・ 横光利一 「南北」
・・・見ていて梶は、鮮かな高田の手腕に必死の作業があったと思った。襯衣一枚の栖方はたちまち躍るように愉しげだった。 その夜は梶と高田と栖方の三人が技師の家の二階で泊った。高田が梶の右手に寝て、栖方が左手で、すぐ眠りに落ちた二人の間に挟まれた梶・・・ 横光利一 「微笑」
・・・しかしこれらの画家を動かしているものは、岡倉覚三氏の時代の自然観、芸術観であって、その手腕の自由巧妙なるにかかわらず、我らの心に深く触れる力がない。 文展の日本画を目安にして言えば、確かに院展の日本画には生気溌剌たる所があるかも知れない・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・ちょうどそのころに今川氏に内訌が起こり、外からの干渉をも受けそうになっていたのを、この浪人が政治的手腕によってたくみに解決し、その功によって愛鷹山南麓の高国寺城を預かることになった。これがきっかけとなって、北条早雲の関東制覇の仕事が始まった・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・それは麦積山そのものが思いがけぬすばらしさを持っていたせいでもあるが、またそのすばらしさを突然われわれの目の前に持って来てくれた名取君の手腕、というのは、あまり前触れもなしにたった一人で出かけて行って、たった三日の間にあの巨大な岩山の遺蹟を・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫