・・・「ちょっと手違いがありまして、大隅君のモオニングが間に合わなくなりまして。」私は、少し嘘を言った。「はあ、」小坂吉之助氏は平気である。「よろしゅうございます。こちらで、なんとか致しましょう。おい、」と二番目の姉さんを小声で呼んで、「・・・ 太宰治 「佳日」
・・・創刊第一号から、こんな手違いを起し、不吉きわまりなく、それを思うと泣きたくなります。このごろ、みんな、一オクタアヴくらい調子が変化して居るのにお気附きございませぬか。私は、もとより、私の周囲の者まで、すべて。大阪サロン編輯部、高橋安二郎。太・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・どこかに手違いがあったのだ。失敗である。「それは、うんと若い時に着たのだよ。派手なようだね。」私は内心の狼狽をかくして、何気なさそうな口調で言った。「着られますよ。セルが一枚も無いのですもの。ちょうどよかったわ。」 とても着られ・・・ 太宰治 「服装に就いて」
・・・ふんどし一つのお姿も、利休七ケ条の中の、 一、夏は涼しく、 一、冬はあたたかに、 などというところから暗示を得て、殊更に涼しい形を装って見せたものかも知れないが、さまざまの手違いから、たいへんな茶会になってしまって、お気の毒な事・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・「なぜッて。手違いだからしかたがないのさ。家君さんが気抜けのようになッたと言うのに、幼稚い弟はあるし、妹はあるし、お前さんも知ッてる通り母君が死去のだから、どうしても平田が帰郷ッて、一家の仕法をつけなければならないんだ。平田も可哀そうな・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫