・・・――この行列は、監物の日頃不意に備える手配が、行きとどいていた証拠として、当時のほめ物になったそうである。 それから七日目の二十二日に、大目付石河土佐守が、上使に立った。上使の趣は、「其方儀乱心したとは申しながら、細川越中守手疵養生不相・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・二人は仕事の手配もきめずに働いた。しかし、冬を眼の前にひかえて何を先きにすればいいかを二人ながら本能のように知っていた。妻は、模様も分らなくなった風呂敷を三角に折って露西亜人のように頬かむりをして、赤坊を背中に背負いこんで、せっせと小枝や根・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・これから牛という事でその手配にかかった。人数が少くて数回にひくことは容易でない。二十頭の乳牛を二回に牽くとすれば、十人の人を要するのである。雨の降るのにしかも大水の中を牽くのであるから、無造作には人を得られない。某氏の尽力によりようやく午後・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・もうすっかり手配がついています。今夜はどうなってもあなたは捕まります。ファゼーロはどこにいるのです。」わたくしは思わず、うそをついてしまいました。 デストゥパーゴは、毒蛾のためにふくれておかしな格好になった顔でななめにわたくしを見ながら・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・「おれと、馬さんは現場へ行ぐ、すぐ消防の手配しろ」 冬にはつきものの北風がその夜も相当に吹いていた。なるほど、勇吉の家が、表側ぱっと異様に明るく、煙もにおう。気負って駆けつけ、「水だ、水だ、皆手を貸せ」と叫んだ勘助は、おやと・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・旅行に出る前、自分は対外文化連絡協会から石炭生産組合へ紹介状を貰い、まだ地図もよく分からないモスクワの商業区域を歩きまわって、その手配をした。 バクーは石油の都である。計画に入れてはいたが、ドン・バスほど確定的に考えていなかった。廻れた・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・そして私どもは、もしそうならばそういう手配は必要ではなかったことと感じている。一体にこの事については、一般がもっともっと注意を向けなければなるまいと思う。共同炊事や栄養食の配給ということは食べるものが清潔であるということが、いって見れば第一・・・ 宮本百合子 「龍田丸の中毒事件」
・・・ 実の母に警察と手配をうちあわされて検挙された友達や、おばさんに密告されてつかまり、ひどい拷問にあった友達を思いだした。 また肉親の圧迫で自殺した三條ウメ子という貴族の娘があったのも思いだした。これはみんな十数年むかしのことである。・・・ 宮本百合子 「肉親」
出典:青空文庫