・・・は四五人とあるかなし、大抵は皆成ろう事なら家に寝ていたい連中であるけれど、それでも善くしたもので、所謂決死連の己達と同じように従軍して、山を超え川を踰え、いざ戦闘となっても負けずに能く戦う――いや更と手際が好いかも知れぬてな。尤も許しさえし・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・其焼く手際が見ていて面白いほどの上手である。二人は一寸と立てみていた、「お美味そうねエ」とお富は笑って言った。「明朝のを今製造えるのでしょうねエ」とお秀も笑うて行こうとする、「ちょっと御待ちなさいよ」とお富は止めて、戸外から、・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・お皿ひとつひとつに、それぞれ、ハムや卵や、パセリや、キャベツ、ほうれんそう、お台所に残って在るもの一切合切、いろとりどりに、美しく配合させて、手際よく並べて出すのであって、手数は要らず、経済だし、ちっとも、おいしくはないけれども、でも食卓は・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・ 病源を見つけたのが第一のえらさで、それを手術した手際は第二のえらさでなければならない。 しかし病気はそれだけではなかった。第一の手術で「速度の相対性」を片付けると、必然の成行きとして「重力と加速度の問題」が起って来た。この急所の痛・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・非常に面白いお伽噺の話の節が、手際よくきびきびと運ばれて行く、そのテンポの緩急が宜しきを得ている。色々の美しいタチングな場面が丁度そのお伽噺の挿画のように順々にめくられて行く、そうした美しい挿画が数え切れないほど沢山あるのである。例えば家な・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・自分の知っている狭い範囲だけでも蕪村、高陽のごとき人の傑作に対する時は、そこに幾多の不細工あるいは不恰好が優れた器用と手際との中に巧みに入り乱れ織り込まれて、ちょうど力強い名匠の音楽の演奏を聞くような感じがするのである。殊に例えば金冬心や石・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・ 物理実験を生徒に示すのは手品を見せるのではない。手際よくやって驚かす性質のものではなく、むしろ如何にすれば成功し如何にすれば失敗するかを明らかにする方に効果がある。それがためには教師はむしろ出来るだけ多く失敗して、最後に成効して見せる・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・ 「彼の論文を読むと、研究の結果の美しさに打たれるばかりでなく、明晰な洞察力で問題の新しい方面へ切り込んで行く手際の鮮やかさに心を引かれる。また書き方が如何にも整然としていて、粗雑な点が少しもない。」「優れた科学者のうちに、一つの問題に・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・その開化をどうするのだと聞かれれば、実は私の手際ではどうもしようがないので、私はただ開化の説明をして後はあなた方の御高見に御任せするつもりであります。では開化を説明して何になる? とこう御聞きになるかも知れないが、私は現代の日本の開化という・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・しからざればいらざる風濤の描写を割いて、主人公の身辺に起る波瀾成行をもう少し上手に手際よく叙したらば好かろうと思う。 普通の小説のような脚色がありながら、その方の筋はいっこうできていないで、かえって自然力の活動ばかり目醒しいので、余はこ・・・ 夏目漱石 「コンラッドの描きたる自然について」
出典:青空文庫