・・・大きなキャバレエーの前を通ると、いきなり、アジャーアジャーとわけのわからぬ唄歌、とたんに打楽器とマラカスがチャイナルンバを奏しだしたのが腹立たしく耳にはいった。軽薄なテンポに、××楼の広間でイヴニングを着て客と踊っていた妓の肢態を想いだした・・・ 織田作之助 「雨」
・・・季題の句が弦楽器であれば、雑の句はいろいろの管楽器ないし打楽器のようなものである。連俳を交響楽たらしむるのは実に雑の句の活動によるのである。その中でも古来最も重要なものとされているのは恋の句であり、これがなければ一巻をなさぬとされている。・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・ここにわれらの鳴りひびく打楽器があります。あすこには、雪のきらめく山嶺とそこに孤独であってはじめて確保された唯心的で超歴史的な恍惚があります。「運河」「畳」「家」これらは、これらとして独自の断面から、日本の人民の生きかたについてを思わせます・・・ 宮本百合子 「鉛筆の詩人へ」
出典:青空文庫