・・・そして僕の感ずるところが間違っていなければ、プロレタリアの人々は、在来ブルジョアの或るものを自分らの指導者として仰いでいる習慣を打破しようとしている。これは最近に生活の表面に現われ出た事実のうち最も注意すべきことだ。ところが芸術にたずさわっ・・・ 有島武郎 「片信」
・・・ 鴎外が博物館総長の椅子に坐るや、世間には新館長が積弊を打破して大改革をするという風説があった。丁度その頃、或る処で鴎外に会った時、それとなく噂の真否を尋ねると、なかなかソンナわけには行かないよ、傍観者は直ぐ何でも改革出来るように思・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・大体われ/\の文学が軽佻で薄っぺらなのは一に東京を中心とし、東京以外に文壇なしと云う先入主から、あらゆる文学青年が東京に於ける一流の作家や文学雑誌の模倣を事とするからであって、その風潮を打破するには、真に日本の土から生れる地方の文学を起すよ・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
・・・によって打破し、指導し得られぬことはない。だがひとたび不幸にしてその女性としての、本質を汚した女性、媚を売る習慣の中に生きた女性を、まだ二十五歳以下の青年学生の清き青春のパートナーとして、私は薦めることのできないものである。 彼女たちに・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・新東京――これから建設されようとする大都会――それはおのずからこの打破と、崩壊と、驚くべき変遷との間に展けて行くように見えた。「ああ出て来てよかった」 と原は心に繰返したのである。再会を約して彼は築地行の電車に乗った。 友達に別・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・老博士はこのようなすべての陋習を打破しようと、努めているのであります。えらいものだ。真なるもののみが愛すべきものである、とポアンカレが言っている。然り。真なるものを、簡潔に、直接とらえ来ったならば、それでよい。それに越したことがない。」もう・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・観者に関するあらゆる絶対性を打破する事によって現出された客観的実在は、ある意味で却って絶対なものになったと云ってもよい。 この仕事を仕遂げるために必要であった彼の徹底的な自信はあらゆる困難を凌駕させたように見える。これも一つのえらさであ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・前に中学卒業試験全廃を唱えたのは、つまりこうして高等教育の関門を打破する意味と思われる。尤も彼も全然あらゆる能力験定をやめるというのではない。医科学生になるための予備試験などは止めた方がいいが、しかし将来教師になろうという人で、見込のないよ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・Huyghens, Young が微粒子説を打破したのもファラデーが action at a distance を無視したのでも、アインスタインが時と空間に関する伝習的の考えを根本から引っくり返して相対率原理の基礎を置いたのでも、いずれにし・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・いわゆる多で、新思想を導いた蘭学者にせよ、局面打破を事とした勤王攘夷の処士にせよ、時の権力からいえば謀叛人であった。彼らが千荊万棘を蹈えた艱難辛苦――中々一朝一夕に説き尽せるものではない。明治の今日に生を享くる我らは維新の志士の苦心を十分に・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
出典:青空文庫