・・・悪い誤解の一つは江口を粗笨漢扱いにしている。それらの誤解はいずれも江口の為に、払い去られなければならない。江口は快男児だとすれば、憂欝な快男児だ。粗笨漢だとすれば、余りに教養のある粗笨漢だ。僕は「新潮」の「人の印象」をこんなに長く書いた事は・・・ 芥川竜之介 「江口渙氏の事」
・・・ そう云う必要に迫られて、これを書いた私が、どうして、狂人扱いをされて、黙って居られましょう。私はもう一度、ここに改めてお願い致します。閣下、どうか私の正気だと云う事を御信用下さい。そうして、この手紙を御面倒ながら、御一読下さい。これは・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・おれもこれから一つ君を歌人扱いにしてやろうと思ってるんだ。A 御馳走でもしてくれるのか。B 莫迦なことを言え。一体歌人にしろ小説家にしろ、すべて文学者といわれる階級に属する人間は無責任なものだ。何を書いても書いたことに責任は負わない・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・おかめひょっとこのように滑稽もの扱いにするのは不届き千万さ。」 さて、笛吹――は、これも町で買った楊弓仕立の竹に、雀が針がねを伝って、嘴の鈴を、チン、カラカラカラカラカラ、チン、カラカラと飛ぶ玩弄品を、膝について、鼻の下の伸びた顔でいる・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・ で、口を手つだわせて、手さきで扱いて、懐紙を、蚕を引出すように数を殖すと、九つのあたまが揃って、黒い扉の鍵穴へ、手足がもじゃ、もじゃ、と動く。……信也氏は脇の下をすくめて、身ぶるいした。「だ……」 がっかりして、「めね……・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・線香を立てて死人扱いをするのがかあいそうでならないけれど、線香を立てないのも無情のように思われて、線香は立てた。それでも燈明を上げたらという親戚の助言は聞かなかった。まだこの世の人でないとはどうしても思われないから、燈明を上げるだけは今夜の・・・ 伊藤左千夫 「奈々子」
・・・丁度兄の伊藤八兵衛が本所の油堀に油会所を建て、水藩の名義で金穀その他の運上を扱い、業務上水府の家職を初め諸藩のお留守居、勘定役等と交渉する必要があったので、伊藤は専ら椿岳の米三郎を交際方面に当らしめた。 伊藤は牙籌一方の人物で、眼に一丁・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・瑜瑕並び覆わざる赤裸々の沼南のありのままを正直に語るのは、沼南を唐偏木のピューリタンとして偶像扱いするよりも苔下の沼南は微笑を含んでかえって満足するであろう。 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・里子の時分、転々と移っていたことに似ているわけだったが、しかしさすがの父も昔のことはもう忘れていたのか、そんな私を簡単に不良扱いにして勘当してしまいました。しかし勘当されたとなると、もうどこも雇ってくれるところはなし、といって働かねば食えず・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・何のことはないまるで子供の使いで、社内でも、おい子供、原稿用紙だ、給仕、鉛筆削れと、はっきり給仕扱いでまるで目の廻わるほどこき扱われた。一日で嫌気がさしてしまったが、近いうちに記者に昇格させてやると言われたのを当てにして、毎日口惜し涙を出し・・・ 織田作之助 「雨」
出典:青空文庫