・・・何となれば今度の笹川の長編ではモデルとして佐々木は最も苛辣な扱いを受けている。佐々木に言わせれば、笹川の本能性ともいうべき「他の優越に対する反感性」が、佐々木の場合に特別に強く現われている言うのだ。――こうしたことを読んでいて、今の佐々木の・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・病人の扱い方を知らぬのだもの、荒々しい人だ」斯んな事を言う内にも段々と息苦しく成るばかりです。 二十二日は未明より医師が来て注射。午後また注射。終日酸素吸入の連続。如何にしても眠れない。 二十三日、今日も朝から息苦しい。然し、顔や手・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・ 今から思いますと、やはりそのころ私はおさよを慕うていたに違いないのです、おさよが私を抱いて赤児扱いにするのを私は表面で嫌がりながら内々はうれしく思い、その温たかな柔らかい肌で押しつけられた時の心持は今でも忘れないのでございます。女難と・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・るとき、工場労働者とはちがった特殊な生活条件、地理環境、習慣、保守性等を持った農民、そして、それらのいろいろな条件に支配される農民の欲求や感情や、感覚などを、プロレタリアートの文学から、どういう風に取扱い、表現しなければならないか? それに・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・立てて云うほどの何があるでも無い眼を見て、初めて夫がホントに帰って来たような気がし、そしてまた自分がこの人の家内であり、半身であると無意識的に感じると同時に、吾が身が夫の身のまわりに附いてまわって夫を扱い、衣類を着換えさせてやったり、坐を定・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・みんな寄ってたかって俺を気違い扱いにして」 急に涙がおげんの胸に迫って来た。彼女は、老い痩せた手でそこにあった坊主枕を力まかせに打った。「憚りながら――」とおげんはまた独りでやりだした。「御霊さまが居て、この年寄を守っていてくださる・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・この父さんは、金之助さんを人形扱いにする袖子のことを笑えなかった。なぜかなら、そういう袖子が、実は父さんの人形娘であったからで。父さんは、袖子のために人形までも自分で見立て、同じ丸善の二階にあった独逸出来の人形の中でも自分の気に入ったような・・・ 島崎藤村 「伸び支度」
・・・どうやら、世の中から名士の扱いを受けて、映画の試写やら相撲の招待をもらうのが、そんなに嬉しいのかね。此頃すこしはお金がはいるようになったそうだが、それが、そんなに嬉しいのかね。小説を書かなくたって名士の扱いを受ける道があったでしょう。殊にお・・・ 太宰治 「或る忠告」
・・・黙っていたら、いつしか人は、私を馬扱いにしてしまった。私は、いま、取りかえしのつかない事がらを書いている。人は私の含羞多きむかしの姿をなつかしむ。けれども、君のその嘆声は、いつわりである。一得一失こそ、ものの成長に追随するさだめではなかった・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・のデッキの上から「あしたは出帆だ」とどなるのをきっかけに、画面の情調が大きな角度でぐいと転回してわき上がるように離別の哀愁の霧が立ちこめる。ここの「やま」の扱いも垢が抜けているようである。あくどく扱われては到底助からぬようなところが、ちょう・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
出典:青空文庫