・・・ 役所の令丁がその太鼓を打ってしまったと思うと、キョトキョト声で、のべつに読みあげた――『ゴーデルヴィルの住人、その他今日の市場に出たる皆の衆、どなたも承知あれ、今朝九時と十時の間にブーズヴィルの街道にて手帳を落とせし者あり、そのう・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・しかしそれがしは不肖にして父同様の御奉公がなりがたいのを、上にもご承知と見えて、知行を割いて弟どもにおつかわしなされた。それがしは故殿様にも御当主にも亡き父にも一族の者どもにも傍輩にも面目がない。かように存じているうち、今日御位牌に御焼香い・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・御覧にいれた方がわたくしには都合がよろしかったのですもの。御承知の通り、わたくしの狂言はすっかり当りましたでしょう。あなたあの写真と競争をお始めなすってから、男前が五割方上がりましたよ。あの写真があなたをせびるようにして、あなたから出来るだ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・「今日という今日は、承知せんぞ!」「何にッ!」 二人は羽がい締めにされた闘鶏のように、また人々の腕の中で怒り立った。「放してくれ、此奴逝わさにゃ、腹の虫が納るかい。」「泣きやがるな!」「何にッ!」 秋三は人々を振・・・ 横光利一 「南北」
・・・私を愛してくれる者はもちろんそれを承知してその集中を妨げないように、もしくはそれを強めるように、力を添えてくれます。しかし自分を犠牲にしてまでそれに尽くしてくれる者はただ一人きりです。他の者たちは、私からされるように望んでいる事を私が果たさ・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫