・・・それをすぐオーケーとばかりに承諾しては田代公吉が阿呆になるからそれは断然拒絶して夕刊娘美代子の前に男を上げさせる。この夕刊売りの娘を後に最後の瞬間において靴磨きのために最有利な証人として出現させるために序幕からその糸口をこしらえておかなけれ・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
東京美術学校文学会の開会式に一場の講演を依頼された余は、朝日新聞社員として、同紙に自説を発表すべしと云う条件で引き受けた上、面倒ながらその速記を会長に依頼した。会長は快よく承諾されて、四五日の後丁寧なる口上を添えて、速・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・私は高等学校へ周旋してくれた先輩に半分承諾を与えながら、高等師範の方へも好い加減な挨拶をしてしまったので、事が変な具合にもつれてしまいました。もともと私が若いから手ぬかりやら、不行届がちで、とうとう自分に祟って来たと思えば仕方がありませんが・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・御承諾下さるつもりで、前もってお礼を申上げます。もうこれでも大ぶ貴重なお時間をお潰させ申しましたでしょうね。マドレエヌ わたくしにお逢いになりましても、そう大して更けたようには御覧なさいませんでしょうと存じますの。年の割に顔も姿も変・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・その人は快く承諾して、他の連と相談した上で一人を介抱のために残して置いて出て往た。このさいに自分が同行者の親切なる介抱と周旋とを受けた事は深く肝に銘じて忘れぬ。二時間ばかり待ってようよう釣台が来てそれに載せられて検疫所を出た。釣台には油単が・・・ 正岡子規 「病」
・・・ それは家畜撲殺同意調印法といい、誰でも、家畜を殺そうというものは、その家畜から死亡承諾書を受け取ること、又その承諾証書には家畜の調印を要すると、こう云う布告だったのだ。 さあそこでその頃は、牛でも馬でも、もうみんな、殺される前の日・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・純夫が陽子の離籍を承諾しない事、一人の女が彼の周囲にあるらしいことなど告げられたのであった。純夫に恋着を失った陽子にそんなことはどうでもよかった。然し、事実は愛情もない、別々に生活している男女が法律の上でだけは夫婦で、しかもその法律が物をい・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・СССРで勤労者は多くの権利をもち、例えば解雇するにも、工場で作業縮小の場合一ヵ月の内三日理由なく休んだ場合、二ヵ月以上収監された場合の外、大体労働者の承諾を必要とする。その代り責任はがっちり肩の上にかかっている。 十一月一日晴。・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・そして宇平がそれを承諾すると、泣き腫らしていた、りよの目が、刹那の間喜にかがやいた。 侍が親を殺害せられた場合には、敵討をしなくてはならない。ましてや三右衛門が遺族に取っては、その敵討が故人の遺言になっている。そこで親族打ち寄って、・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・「わたしなりますわ。」きさくに、さっぱりと答えた。「承諾しました」と、久保田がロダンに告げた。 ロダンの顔は喜にかがやいた。そして椅子から起ち上がって、紙とチョオクとを出して、卓の上に置きながら、久保田に言った。「ここにいますか・・・ 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫