・・・――そこで、心得のある、ここの主人をはじめ、いつもころがり込んでいる、なかまが二人、一人は検定試験を十年来落第の中老の才子で、近頃はただ一攫千金の投機を狙っています。一人は、今は小使を志願しても間に合わない、慢性の政治狂と、三個を、紳士、旦・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ 科学者の中にはただ忠実な個々のスケッチを作るのみをもって科学者本来の務めと考え、すべての総合的思索を一概に投機的とし排斥する人もあるかもしれない。また反対に零細のスケッチを無価値として軽侮する人もあるかもしれないが、科学というものの本・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・ ただ国民の中でおそらくきわめて少数なある種のデマゴーグ的政治家、あるいは投機的の事業にたずさわるいわゆる「実業家」のうちの一部の人たちは、一日でも一時間でも他人より早くこれらの記事を知りたいと思うだろう。そういう人々の便宜を計るという・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・ これほどの広い地域をみたす日本のこく倉の稲田は、つまるところ、現在の世の中のしくみでは、やはり一つの最も投機的な商品ではないのだろうか。もし、この広大な稲田全体が、いつわりない農民の生産として、それを作る農民の生活にもかえってゆくもの・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
・・・に住んで居る四十近くの男の様に投機めいた様子のあるものを抱えて居る。 しかし私の思う美くしさばかりは、どこの面をのぞいてもそう云う不快さは持って居ない。 すなおに――しとやかに――さりながらやたら無精にかきまわす事の出来ない厳かさを・・・ 宮本百合子 「繊細な美の観賞と云う事について」
・・・町人に生まれ、折から興隆期にある町人文化の代表者として、西鶴は談林派の自在性、その芸術感想の日常性を懐疑なく駆使して、当時の世相万端、投機、分散、夜逃げ、金銭ずくの縁組みから月ぎめの妾の境遇に到るまでを、写実的な俳諧で風俗描写している。住吉・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・という大きい希望に今やもう一つの、更に困難で、投機的ないかにも当時らしい性質をもった大望が加えられた。それは、「自分も金持になって、貴族になりたい」という願望である。一八三〇年前後のパリがそれを中心として二六時中たぎり立っていた「成上り」の・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・しかも、どこかに投機的な期待をそそられる気分も動く災難のように。 明治からこんどの戦争までに日本の政府は日清、日露、第一次世界大戦、そのほか三つ以上の戦争を行った。日清戦争、日露戦争は国民全体にとって記憶のふかい戦争だとされているが、そ・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫