・・・…… 指の細く白いのに、紅いと、緑なのと、指環二つ嵌めた手を下に、三指ついた状に、裾模様の松の葉に、玉の折鶴のように組合せて、褄を深く正しく居ても、溢るる裳の紅を、しめて、踏みくぐみの雪の羽二重足袋。幽に震えるような身を緊めた爪先の塗駒・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・……懐紙の、白い折鶴が掌にあった。「この飛ぶ処へ、すぐおいで。」 ほっと吹く息、薄紅に、折鶴はかえって蒼白く、花片にふっと乗って、ひらひらと空を舞って行く。……これが落ちた大な門で、はたして宗吉は拾われたのであった。 電車が・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・風のない日は縁側の日向へ出て来て、紙の折り鶴をいくつとなくこしらえてみたり、秘蔵の人形の着物を縫うてやったり、曇った寒い日は床の中で「黒髪」をひくくらいになった。そして時々心細い愚痴っぽい事を言っては余と美代を困らせる。妻はそのころもう身重・・・ 寺田寅彦 「どんぐり」
出典:青空文庫