・・・その敬服さ加減を披瀝するために、この朴直な肥後侍は、無理に話頭を一転すると、たちまち内蔵助の忠義に対する、盛な歎賞の辞をならべはじめた。「過日もさる物識りから承りましたが、唐土の何とやら申す侍は、炭を呑んで唖になってまでも、主人の仇をつ・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・即ち文章とは、己が思想感情をそのまゝに披瀝することによって、初めて成立するものであると。 そこから、更にこういうことも云える。古来日本の文章には、何々して何々侍るというような雅文体や、何々し何々すべけんやというような漢文体なぞが行われて・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・に於いて、堯舜禹の實在的人物に非ざるべき卑見を述べてより已に三年、しかもこの大膽なる臆説は多くの儒家よりは一笑に附せられしが、林〔泰輔〕氏の篤學眞摯なる、前に『東洋哲學』に、近く『東亞研究』に、高説を披瀝して教示せらるゝ所ありき。 茲に・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・彼は彼自身のもっている唯一の詩的興趣を披瀝するように言った。「もっと暑くなると、この草が長く伸びましょう。その中に寝転んで、草の間から月を見ていると、それあいい気持ですぜ」 私は何かしら寂しい物足りなさを感じながら、何か詩歌の話でも・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・「諸君、祭司長は、只今既に、無言を以て百千万言を披瀝した。是れ、げにも尊き祭始の宣言である。然しながら、未だ祭司長の云わざる処もある。これ実に祭司長が述べんと欲するものの中の糟粕である。これをしも、祭司次長が諸君に告げんと欲して、敢て咎・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ アメリカ国内の民主的なすべての人々は、政権争いをこえて世界をあかるくするための誠意の披瀝されたウォーレスの綱領を好意的に迎えた。共和党と根本においては大差のない民主党が、トルーマンを当選させるためには、その政策をかけひきなしに民主的人・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ういしい情感の上にそのさまざまな姿が描かれるばかりでなく、二十歳をかなり進んだひとたちも三十歳の人妻もあるいは四十歳を越して娘が少女期を脱しかけている年頃の女性たちも、率直な心底をうちわってその心持を披瀝すれば、案外にもその人たちが十七八歳・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・その席上で幣原首相は、私も自分の利益のために粘っているのではない、国を憂えることは諸君と同じだが、方法が違う、と意見を披瀝しはじめたら、傍から楢橋書記翰長が、なお言をつごうとする首相に「『ストップ』と命じ、首相にこれ以上の発言を許さなかった・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・ そして、初めはなんとなく弱く、あるいは数も少いその歌声が、やがてもっと多くの、まったく新しい社会各面の人々の心の声々を誘いだし、その各様の発声を錬磨し、諸音正しく思いを披瀝し、新しい日本の豊富にして雄大な人民の合唱としてゆかなければな・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・この映画が、現代小学校生活にふくまれている諸問題を真面目に率直に披瀝して識者の関心に訴えようとせず、画面の小奇麗さ、子供らの整然さだけに観衆の興味を限ろうとしているのは遺憾であった。 三巻の映画を眺めて行くうちに、もっとユーモアを! も・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
出典:青空文庫