・・・、何処にも茶室の一つ位は拵らえてある、茶の湯は今日に行われて居ると人は云うであろう、それが大きな間違である、それが茶の湯というものが、世に閑却される所以であろう、いくら茶室があろうが、茶器があろうが、抹茶を立てようが、そんなことで茶趣味の一・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・道太はその師匠が配った抹茶茶碗を箱から取りだして撫でまわしていた。もちろん常磐津に限ったことではなかった。芸と品位とで、この廓は昔しから町の旦那衆の遊び場所になっていたが、近ごろはかえって競争相手ではなかった西の方の廓の方でも、負けを取らな・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・しかるに思いがけもなく抹茶趣味の左千夫からこの舶来の花を貰うて、再び昔のように小桜草と併べて置かれてあるのが満足であった。○病牀におけるこの頃の問題はどうして日を送るかという事である。からだの痛みが激しくて少しも止まらぬような時はとにか・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
出典:青空文庫