・・・ この場合、うっかり口へ出そうなのを、ふと控えたのは、この婦が、見た処の容子だと、銀座へ押掛けようと言いかねまい。…… そこの腰掛では、現に、ならんで隣合った。画会では権威だと聞く、厳しい審査員でありながら、厚ぼったくなく、もの・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・縁日とさえあればどこへでも押掛けて、鏝塗の変な手つきで、来た来たと踊りながら、「蝋燭をくんねえか。」 怪むべし、その友達が、続いて――また一人。…………大正二年六月 泉鏡花 「菎蒻本」
・・・家へ帰ってから読むつもりであったのを、その晩は青木という大学生に押掛けられた。割合に蚊の居ない晩で、二人で西瓜を食いながら話した。はじめて例の著書が出版された当時、ある雑誌の上で長々と批評して、「ツルゲネエフの情緒あって、ツルゲネエフの想像・・・ 島崎藤村 「並木」
出典:青空文庫