・・・いよいよあさってが結婚式という日の明方、カン蛙は夢の中で、「今日は僕はどうしてもみんなの所を歩いて明後日の式に招待して来ないといけないな。」と云いました。ところがその夜明方から朝にかけて、いよいよ雨が降りはじめました。林はガアガアと鳴り・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・ そこで工芸学校の先生は、町の紫紺染研究会の人達と相談して、九月六日の午后六時から、内丸西洋軒で山男の招待会をすることにきめました。そこで工芸学校の先生は、山男へ宛てて上手な手紙を書きました。山男がその手紙さえ見れば、きっともう出掛けて・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・そのとき、フランスからロマン・ロラン、バルビュス、マルローその他の作家が招待された。招待された作家たちの全部が出席することは出来なかったらしいけれども、この大会が与えた文化の守りについての深い感動と認識にたって、翌る年の一九三五年六月にパリ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・彼は自分の不快の為に彼女が断った今日の招待状が二枚、化粧台の上に賑やかな金縁を輝かせているの知っていた。 彼女は、朝の髪を結うとき、殆どひとりでに改めてその華やかな文字を眺めなおしただろう。きっと寂しい眼付をして窓の外を眺め、髪を結いか・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・第一次欧州大戦が終ったばかりで、人道的な英雄としてベルギーの皇帝・皇后がコロンビア大学に招待された初夏の光景は壮麗に思い出される。勇敢な看護婦・皇后エリザベスは小柄で華奢で、しかも強靭な身ごなしで、歩道によせられた自動車から降り立った。その・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・その一つは林町の父の親友たち爺さん達を招待して父をよろこばせること。もう一つは島田の父上の御隠居部屋をつくる資金の一部をお送りすることです。この計画は非常に楽しみで、そのために早く本を出したいとさえ思う位です。虹ヶ浜へ小さい家をかりてあげま・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・親しい間柄と云いながら、今晩わざわざ請待した客の手前がある。どうぞこの席はこれでお立下されい」と云った。 下島は面色が変った。「そうか。返れと云うなら返る。」こう言い放って立ちしなに、下島は自分の前に据えてあった膳を蹴返した。「これ・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・同一の人が同一の場所へ請待した客でありながら、乗合馬車や渡船の中で落ち合った人と同じで、一人一人の間になんの共通点もない。ここかしこで互に何か言うのは、時候の挨拶位に過ぎない。ぜんまいの戻った時計を振ると、セコンドがちょっと動き出して、すぐ・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・ そこでこの懇親会の輪番幹事の一人たる畑が、秋水を請待して、同郷の青年を警醒しようとしたのだと云うことは、問うことを須いない。 暫くして畑の後輩で、やはり幹事に当っている男が、我々を余興の席へ案内した。宴会のプログラムの最初に置かれ・・・ 森鴎外 「余興」
・・・ 三渓園の原邸では、招待して待ち受けてでもいたかのように、款待をうけた。漱石としては初めて逢う人ばかりであったが、まことに穏やかな、何のきしみをも感じさせない応対ぶりで、そばで見ていても気持ちがよかった。世慣れた人のようによけいなお世辞・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫