・・・ 畏れ多い話だが、玉音は録音の技術がわるくて、拝聴するのが困難であったが、アナウンサーのニュースを聞いているうちに、「あッ、戦争が終ったのだ!」 と、直感された。 さすがの王仁三郎も五日間おくれてしまったわけだと、私は思った・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・チンダルから昨日手紙をよこして是非来年は拝聴に上るというのサ。そのくらいの訳だから日本人に分るような浅薄ナ論じゃアない。ダガネ、論をする前に君に教えておく事があるのサ。いいかえ、臆えて置玉え、妙な理屈だゼ。マアこうサ。第一、人間というものは・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・東京に住む俗な友人は、北京の人の諤々たる時事解説を神妙らしく拝聴しながら、少しく閉口していたのも事実であった。私は新聞に発表せられている事をそのとおりに信じ、それ以上の事は知ろうとも思わない極めて平凡な国民なのである。けれども、また大隅君に・・・ 太宰治 「佳日」
・・・とでも親しくなると、すぐにアルバムを見せ合うものでございますが、いつか、芹川さんは大きな写真帖を持って来て、私に見せて下さいましたけれど、私は芹川さんの、うるさいほど叮嚀な説明を、いい加減に合槌打って拝聴しながら一枚一枚見ていって、そのうち・・・ 太宰治 「誰も知らぬ」
・・・私もさっそく四人の大学生の間に割込んで、先生の御高説を拝聴したのであるが、このたびの論説はなかなか歯切れがよろしく、山椒魚の講義などに較べて、段違いの出来栄えのようであったから、私は先生から催促されるまでも無く、自発的に懐中から手帖を出して・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・現に君が、僕の話を拝聴しにこうして度々やって来る。」「ちがいますよ。僕は、遊びに来るのです。遊び方の研究をしに来ているのです。これも文化運動の一つでしょう?」「よく学び、よく遊べ、というやつか。その着想は、しかし、わるくないね。」・・・ 太宰治 「母」
・・・後学のため話だけでも拝聴して帰ろうとようやく肚の中で決心した。見ると津田君も話の続きが話したいと云う風である。話したい、聞きたいと事がきまれば訳はない。漢水は依然として西南に流れるのが千古の法則だ。「だんだん聞き糺して見ると、その妻と云・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・一同謹んで拝聴する。私も隅の方に小さくなって拝聴する。信仰のない私には、どうも聞き慣れぬ漢語や、新しい詩人の用いるような新しい手爾遠波が耳障になってならない。それに私を苦めることが、秋水のかたり物に劣らぬのは、婆あさんの三味線である。この伴・・・ 森鴎外 「余興」
出典:青空文庫