・・・ただし括弧の中にあるのは僕自身の加えた註釈なのです。―― 詩人トック君の幽霊に関する報告。 わが心霊学協会は先般自殺したる詩人トック君の旧居にして現在は××写真師のステュディオなる□□街第二百五十一号に臨時調査会を開催せり。列席せる・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・以下はその日の、座談筆記の全文である。括弧の中は、速記者たる私のひそかな感懐である。 さて、きょうは、何をお話いたしましょうかな。何も別にお話する程の珍らしい事もございませぬが、本当に、いつもいつも似たような話で、皆様もうんざりした・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・という一句が詩のルフランのように括弧でくくられて書かれていた。いったい、ひとりの青年とは誰のことなんだとそのじぶん楽壇でひそひそ論議されたものだそうであるが、それは、馬場であった。馬場はヨオゼフ・シゲティと逢って話を交した。日比谷公会堂での・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・ 意外な事には、此の手紙のところどころに、先輩の朱筆の評が書き込まれていた。括弧の中が、その先輩の評である。 ――○○兄。生涯にいちどのおねがいがございます。八方手をつくしたのですがよい方法がなく、五六回、巻紙を出したり、ひっこめた・・・ 太宰治 「誰」
・・・以下はその座談筆記の全文であって、ところどころの括弧の中の文章は、私の蛇足にも似た説明である事は前回のとおりだ。 なに、むずかしい事はありません。つまらぬ知識に迷わされるからいけない。女は、うぶ。この他には何も要らない。田舎でよく見・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・。。。。括弧の中が一シラブルである。これらは少しの読み方で七五調に読めば読まれなくはない。 サンスクリトの詩句にも色々の定型があるようであるが、十六綴音を一句とするものの連続が甚だ多いらしい。それを少し我儘な・・・ 寺田寅彦 「短歌の詩形」
・・・とそう云ってくれ。」こう言い放ってオオビュルナンは客間を出た。脚本なら「退場」と括弧の中に書くところである。最も普通の俳優はこんな時「それではあんまり不自然で引っ込みにくいから、相手になんとか言わせてくれ」と、作者に頼むのが例になっている。・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・細い目のちょいと下がった目尻に、嘲笑的な微笑を湛えて、幅広く広げた口を囲むように、左右の頬に大きい括弧に似た、深い皺を寄せている。 綾小路はまだ饒舌る。「そんなに僕の顔ばかし見給うな。心中大いに僕を軽侮しているのだろう。好いじゃないか。・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫