・・・よくバスの車掌さんなんかで警察へつかまると、スパイが迚も拷問し、しかも女として堪えられないような目にあわす話をききますが、みんなそれは嘘でない証拠がここにあると思いました。 監獄では何ぞというと懲罰をくわすのだそうです。革命記念日に嚔を・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・ 目をうつすと、テーブルの脚のところに何本もしごいた拷問用の手拭がくくりつけてある。――いきなり、その一寸した隙に飛びかかるような勢で、「何だ! その椅子のかけようは!」と呶鳴った。自分は、普通人間が椅子にかけるようにゆったり深・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・一九三二年の文化団体に対する弾圧当時、駒込署に検挙され、拷問のビンタのために中耳炎を起し危篤におちいった。のち、地下活動中過労のため結核になって中野療養所で死去した。百合子の「小祝の一家」壺井栄「廊下」等は今野大力の一家の生活から取材されて・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
小林多喜二は、一九三三年二月二十日、築地警察で拷問された結果、内出血のために死んだ。 小林多喜二の文学者としての活動が、どんなに当時の人々から高く評価され、愛されていたかということは、殺された小林多喜二の遺骸が杉並にあ・・・ 宮本百合子 「今日の生命」
・・・独軍につかまった時、彼女は、パルチザンの秘密を守って、拷問に耐え、一言も云わずに殺された。防衛戦の雄々しい英雄として彼女の物語りは映画にも作られた。ゾーヤも新しいソヴェトの娘であった。その物語りを書いたマルガリータも亦、新しいソヴェトの娘で・・・ 宮本百合子 「新世界の富」
・・・いつの時代でも、より精練された心情はより想像力に富んでいるから、当時の日本の知性は、ファシズムの野蛮さをめいめいの肉体の上に痛みとして感じ、不潔さとして嫌悪し、拷問を描いて恐怖した。日本の治安維持法は、実際に作家さえ虐殺したのだから。 ・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・川口検事が立って、検察側はだんじて拷問、人権蹂躙を行っていない。虚構誇大、事実をまげて検事裁判官、裁判所を誹謗し、演説会で宣伝する。これは侮辱、名誉毀損、恐喝、恐迫等の犯罪を構成する。適当な機会に断固たる処置をとりたい。数十名の弁護人ならび・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・この論法をもってすれば、同志小林が残虐きわまる拷問にあいつつ堅忍不抜、ついにボルシェヴィキの党派性を死守して英雄的殉難を遂げたそのボルシェヴィクの最後の積極性が発揮された時こそ、同志小林は最も偏狭であったということになるのだ。 同志小林・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・ 同心らが三道具を突き立てて、いかめしく警固している庭に、拷問に用いる、あらゆる道具が並べられた。そこへ桂屋太郎兵衛の女房と五人の子供とを連れて、町年寄五人が来た。 尋問は女房から始められた。しかし名を問われ、年を問われた時に、かつ・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・それは老人や母親にとって全く一種の拷問である。しかし彼らには貧乏であるという事のほかになんにも白状すべきことがない。彼らは黙って静かにその苦しみに堪える。むしろある遠隔な土地へ行くためにはその苦しみが当然であることを感じている。たとえ眠られ・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫